title

環上の加群 (13)基底の濃度


補題30
$K~$を体、$V~$を$~K$ベクトル空間とする。
1次独立な有限部分集合$~S=\{s_1,\dots,s_n\},T=\{t_1,\dots,t_m\}\subset V~$に対して、$m\le n~$かつ$~T\subset\langle S\rangle~$なら、(順序をうまく取り換えることで) \[ \langle t_1,\dots,t_m,s_{m+1},\dots,s_n\rangle=\langle S\rangle \] が成り立つ。

$m~$に関する数学的帰納法で示す。
まず、$m=1~$とする。
$t_1\in\langle S\rangle~$より、$a_1,\dots,a_n\in K~$があり \[ t_1 = a_1s_1+\cdots+a_ns_n \] とできる。
$t_1\neq0~$なので、$a_i\neq0~$となる$~i\in\{1,\dots,n\}~$がある。
特に、$i=1~$としても一般性を失わない。
このとき、 \[ s_1 = {a_1}^{-1}t_1-{a_1}^{-1}a_2s_2-\cdots-{a_1}^{-1}a_ns_n \] となる。
したがって、$\langle t_1,s_2,\dots,s_n\rangle=\langle S\rangle~$となる。

$m-1~$に対して主張が正しいと仮定する。
仮定より$~\langle S\rangle=\langle t_1,\dots,t_{m-1},s_m,\dots,s_n\rangle~$とできる。
$t_m\in\langle S\rangle=\langle t_1,\dots,t_{m-1},s_m,\dots,s_n\rangle~$より \[ t_m = b_1t_1+\cdots+b_{m-1}t_{m-1}+b_ms_m+\cdots+b_ns_n \] となる$~b_1,\dots,b_n\in K~$がとれる。
$b_m=\cdots=b_n=0~$とすると$~t_m = b_1t_1+\cdots+b_{m-1}t_{m-1}~$となるので$~T~$の1次独立性に矛盾する。
したがって、$b_i\neq0~$となる$~i\in\{m,\dots,n\}~$が存在する。
特に、$i=m~$としても一般性を失わない。
このとき、 \[ s_m = -{b_m}^{-1}b_1t_1-\cdots-{b_m}^{-1}b_{m-1}t_{m-1}+{b_m}^{-1}t_m-{b_m}^{-1}b_{m+1}s_{m+1}-\cdots-{b_m}^{-1}{b_n}s_n \] とできる。
よって、$\langle t_1,\dots,t_m,s_{m+1},\dots,s_n\rangle=\langle t_1,\dots,t_{m-1},s_m,\dots,s_n\rangle=\langle S\rangle~$となる。
$$\square$$


補題31
$K~$を体、$V~$を$~K$ベクトル空間とする。
$S=\{s_1,\dots,s_n\},T\subset V~$を1次独立であるとする。
このとき、$T~$の元のうち$~S~$の1次結合であるものは$~n$個以下である。

$T~$の元のうち$~S~$の1次結合であるもの全体を$~T'~$とする。
$|T'|=m\gt n~$を仮定して矛盾を導く。
$T'=\{t_1,\dots,t_m\}~$とする。
補題30より$~\langle S\rangle=\langle t_1,\dots,t_n\rangle~$とできる。
このとき、$t_{n+1}\in\langle S\rangle=\langle t_1,\dots,t_n\rangle~$となるが、これは$~T~$が1次独立であることに矛盾する。
$$\square$$


定理32
$K~$を体、$V~$を$~K$ベクトル空間とする。
$S,T~$が$~V~$の基底ならば$~|S|=|T|~$である。

<$S~$が有限集合のとき>
$S~$は$~V~$の基底なので$~T\subset V=\langle S\rangle~$となる。
$T~$は1次独立なので、補題31より$~|T|\le|S|~$である。
よって、$T~$も有限集合である。
同様にして$~|S|\le|T|~$とできる。
したがって、$|S|=|T|~$である。

<$S~$が無限集合であるとき>
正整数$~n\in\mathbb{Z}_{\gt},v=(v_1,\dots,v_n)\in S^n~$に対して、 \[ B_{n,v} = \{x\in T \mid xは\{v_1,\dots,v_n\}の1次結合\} \] と定める。
補題31より、$|B_{n,v}|\le n~$である。
$S~$は$~V~$を生成するので、$\displaystyle T=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\bigcup_{v\in S^n}B_{n,v}~$である。
$\displaystyle\left|\bigcup_{v\in S^n}B_{n,v}\right|\le|S^n\times N_n|~$となる。
(ただし、$N_n=\{1,\dots,n\}~$である。)
$S~$は無限集合なので、$~|S^n\times N_n|\le|S|~$である。
したがって、$|T|\le|\mathbb{N}\times S|~$となる。
$S~$は無限集合なので、$|\mathbb{N}\times S|\le|S|~$である。
よって、$|T|\le|S|~$となり、同様に$~|S|\le|T|~$もわかるので$~|S|=|T|~$である。

$$\square$$


定理33
$K~$を体、$V~$を$~K$ベクトル空間とし、$S_0\subset V~$を1次独立な部分集合とする。
このとき、$S_0~$を含む基底が存在する。

$S_0~$を含み1次独立な$~V~$の部分集合全体を$~X~$とおく。
包含関係$\subset$による順序集合$~(X,\subset)~$を考える。
$\mathcal{C}\subset X~$を任意の鎖とし、$\displaystyle\overline{S}=\bigcup\mathcal{C}~$とする。
$\overline{S}~$が1次従属であると仮定して矛盾を導く。
仮定より、$a_1,\dots,a_n\in K,s_1,\dots,s_n\in\overline{S}~$があり、 \[ a_1s_1+\cdots+a_ns_n=0 ~かつ~ \lnot(a_1=\cdots=a_n=0) \] を満たす。
$s_1,\dots,s_n\in\overline{S}~$なので、$S_1,\dots,S_n\in\mathcal{C}~$があり、各$~i=1,\dots,n~$に対して$~s_i\in S_i~$となる。
$\mathcal{C}~$は鎖なので$~{}^{\forall}i\in\{1,\dots,n\},S_i\subset S_{i_0}~$となる$~i_0\in\{1,\dots,n\}~$がとれる。
よって、$s_1,\dots,s_n\in S_{i_0}~$となるが、$S_{i_0}~$が1次独立であることに矛盾する。
したがって、$\overline{S}\in X~$となる。
また、$\overline{S}~$は明らかに$~\mathcal{C}~$の上界である。
Zronの補題より、$X~$には極大元$~S~$が存在する。

$v\in V~$を任意にとる。
$S~$の極大性から、$S'=S\cup\{v\}~$は1次従属である。
$S'~$は1次従属であるので、$a_1,\dots,a_n,b\in K,s_1,\dots,s_n\in S~$があり、 \[ a_1s_1+\cdots+s_ns_n+bv=0 ~かつ~ \lnot(a_1=\cdots=a_n=b=0) \] となる。
$b=0~$ならば$~S~$が1次独立であることに矛盾するので$~b\neq0~$である。
よって、各$~i=1,\dots,n~$に対して$~a'_i=-a_ib^{-1}~$とすれば \[ v = a'_1s_1+\cdots+a'_ns_n \] と表されるので、$v~$は$~S~$の1次結合である。
したがって、$S~$は$~V~$の基底である。
$$\square$$

$\emptyset~$は1次独立であるので、任意のベクトル空間に対してその基底が存在することまでわかる。
さらに、定理32によって基底の濃度は一意的である。
$K$ベクトル空間$~V~$の基底の濃度を$~V~$の($K$上の)次元(dimension)といい、$\mathrm{dim}_KV~$と書く。
ただし、無限濃度の場合は単に$~\mathrm{dim}_KV=\infty~$と書く。

定理34
$A~$を可換環、$M~$を$~A$加群とする。
$S,T~$が$~M~$の基底ならば$~|S|=|T|~$である。

可換環論.命題12より、$A~$の極大イデアル$~\mathfrak{m}~$がとれる。
\[ \mathfrak{m}M = \langle\{ax \mid a\in\mathfrak{m},x\in M\}\rangle \] とおく。
つまり、$\mathfrak{m}M~$は$~ax~(a\in\mathfrak{m},x\in M)~$という形の元の1次結合全体で、$M~$の部分$A$加群である。

$S~$は$~M~$の基底なので、命題23より$~\displaystyle M\simeq\bigoplus_SA~$となる。
写像$~\displaystyle f:M\to\bigoplus_S(A/\mathfrak{m})~$を \[ \sum_{s\in S}a_ss \longmapsto (\pi(a_s))_{s\in S} \] で定める。
これは明らかに全射である。
主張34.1
$f~$は$~A$準同型写像である。

任意に$~x,y\in M,a\in A~$をとる。
\begin{align} x &= \sum_{s\in S}a_ss\\ y &= \sum_{s\in S}b_ss \end{align} と表されているとする。
このとき、 \begin{align} f(x+y) &= f\left(\sum_{s\in S}(a_s+b_s)s\right)\\ &= (\pi(a_s+b_s))_{s\in S}\\ &= (\pi(a_s)+\pi(b_s))_{s\in S}\\ &= (\pi(a_s))_{s\in S}+(\pi(b_s))_{s\in S}\\ &= f(x)+f(y) \end{align} \begin{align} f(ax) &= f\left(\sum_{s\in S}aa_ss\right)\\ &= (\pi(aa_s))_{s\in S}\\ &= (\pi(a)\pi(a_s))_{s\in S}\\ &= (a\pi(a_s))_{s\in S}\\ &= a(\pi(a_s))_{s\in S}\\ &= af(x) \end{align} となるので、$f~$は$~A$準同型である。
$$\square$$

主張34.2
$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits f=\mathfrak{m}M$

任意の$~x\in M~$を任意にとる。 \[ x = \sum_{s\in S}a_ss \] と表されているとすれば \begin{align} x\in\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits f &\Longleftrightarrow (\pi(a_s))_{s\in S}=0\\ &\Longleftrightarrow {}^{\forall}s\in S,\pi(a_s)=0\\ &\Longleftrightarrow {}^{\forall}s\in S,a_s\in\mathfrak{m}\\ &\Longleftrightarrow (a_s)_{s\in S}\in\bigoplus_S\mathfrak{m}\\ &\Longleftrightarrow x\in\mathfrak{m}M \end{align} となるので、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits f=\mathfrak{m}M~$である。
$$\square$$

よって、第一同型定理より \[ M/\mathfrak{m}M \simeq \bigoplus_S(A/\mathfrak{m}) \] となる。
$T~$についても同様に \[ M/\mathfrak{m}M \simeq \bigoplus_T(A/\mathfrak{m}) \] となる。
したがって、 \[ \bigoplus_S(A/\mathfrak{m}) \simeq \bigoplus_T(A/\mathfrak{m}) \] となるが、$A/\mathfrak{m}~$が体なのでこれは$~A/\mathfrak{m}$ベクトル空間の同型である。
定理32より、$|S|=|T|~$となる。
$$\square$$

$M~$が自由$A$加群なら基底が必ずあり、その濃度は一意に定まる。
基底の濃度を$~M~$の階数(rank)といい、$\mathrm{rk}_AM~$と書く。
(ベクトル空間の場合は上にある通り次元と呼ぶ。)