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環上の加群 (10)自由加群


 $A~$を環とする。
基底を持つ左$A$加群を自由左$A$加群という。

補題21
環$~A~$はその乗法によって左$A$加群となる。
また、任意の集合$~I~$に対して$~\displaystyle\bigoplus_IA~$は自由左$A$加群である。

環$~A~$は加法によって可換群である。
また、任意の$~a,b,x,y\in A~$に対して \[ 1x = x \] \[ (ab)x = a(bx) \] \[ (a+b)x = ax+bx \] \[ a(x+y) = ax+ay \] が成り立つので、$A~$は左$A$加群となる。

$S=\{\mathrm{in}_i(1) \mid i\in I\}~$とする。
任意の$~\displaystyle(a_i)_{i\in I}\in\bigoplus_IA~$に対して \[ (a_i) = \sum_{i\in I}\mathrm{in}_i(a_i) = \sum_{i\in I}a_i\mathrm{in}_i(1) \] となるので、$S~$は$~A~$を生成する。
また、明らかにこの表示は一意的である。
$$\square$$

後半の証明で現れた$~\displaystyle\bigoplus_IA~$の基底$~\{\mathrm{in}_i(1) \mid i\in I\}~$を標準基底といい、各$~\mathrm{in}_i(1)~$を$~\mathbb{e}_i~$と書く。

命題22
$A~$を環、$M~$を左$A$加群、$S\subset M~$を部分集合とする。
このとき、写像$~\displaystyle g:\bigoplus_SA\to M~$を各$~\displaystyle(a_s)_{s\in S}\in\bigoplus_SA~$に対して \[ g((a_s)) = \sum_{s\in S}a_ss \] となるように定めれば$~g~$は$~A$準同型となる。

任意に$~\displaystyle a\in A,(a_s),(b_s)\in\bigoplus_SA~$をとる。
このとき、 \begin{align} g((a_s)+(b_s)) &= g((a_s+b_s))\\ &= \sum_{s\in S}(a_s+b_s)s\\ &= \sum_{s\in S}(a_ss+b_ss)\\ &= \sum_{s\in S}a_ss + \sum_{s\in S}b_ss\\ &= g((a_s))+g((b_s)) \end{align} \begin{align} g(a(a_s)) &= g((aa_s))\\ &= \sum_{s\in S}(aa_s)s\\ &= a\sum_{s\in S}a_ss\\ &= ag((a_s)) \end{align} が成り立つ。
$$\square$$

この$~A$準同型の像は明らかに$~\langle S\rangle~$である。
また、$S~$が1次独立であるならば、この写像は$~A$同型$~\displaystyle\bigoplus_SA\simeq\langle S\rangle~$となる。
よって、次がわかる。
命題23
$A~$を環、$M~$を自由左$A$加群、$S~$を$~M~$の基底とする。
このとき、$\displaystyle M\simeq\bigoplus_SA~$である。