環上の加群 (3)準同型写像
$M,N~$を左$A$加群とし、$\varphi:M\to N~$を群準同型写像とする。
\[ {}^{\forall}a\in A,x\in M,\varphi(ax)=a\varphi(x) \] が成り立つとき、$\varphi~$は左$A$加群の準同型写像であるという。
$M~$から$~N~$への左$A$加群の準同型写像全体の集合を$~\mathrm{Hom}_A(M,N)~$と書く。
$A~$が斜体のときは、$A$線形写像という。
左$A$加群の準同型写像$~\varphi:M\to N~$が全単射で、その逆写像も左$A$加群の準同型写像であるとき、$\varphi~$は左$A$加群の同型写像であるという。
左$A$加群の同型写像$~M\to N~$が存在するとき、$M\simeq N~$と書く。
以降この頁では左$A$加群の準同型写像、同型写像を単に$A$準同型、$A$同型ということにする。
命題4
$A~$を環、$M,N~$を左$A$加群とする。$A$準同型$~\varphi:M\to N~$が全単射なら$~\varphi~$は$A$同型である。
$\varphi:M\to N~$は全単射群準同型なので、逆写像$~\varphi^{-1}~$も群準同型である。
任意に$~a\in A,x\in M~$をとる。
\[ \varphi(\varphi^{-1}(ax)) = ax = a\varphi(\varphi^{-1}(x)) = \varphi(a\varphi^{-1}(x)) \] が成立し、$\varphi~$が単射なので$~\varphi^{-1}(ax)=a\varphi^{-1}(x)~$となる。
$$\square$$
任意に$~a\in A,x\in M~$をとる。
\[ \varphi(\varphi^{-1}(ax)) = ax = a\varphi(\varphi^{-1}(x)) = \varphi(a\varphi^{-1}(x)) \] が成立し、$\varphi~$が単射なので$~\varphi^{-1}(ax)=a\varphi^{-1}(x)~$となる。
補題5
$G,H~$を可換群とする。$G~$から$~H~$への群準同型全体$~\mathrm{Hom}(G,H)~$上の演算を次を満たすように定める。 \[ (f+g)(x) = f(x) + g(x) ~~~~~ (f,g\in\mathrm{Hom}(G,H),x\in G) \] この演算によって、$\mathrm{Hom}(G,H)~$は可換群になる。
零写像$~0:G\to H~;~x\mapsto 0~$は明らかに単位的である。
任意の$~f\in\mathrm{Hom}(G,H)~$に対して \[ g(x) = -f(x) ~~~~~ (x\in G) \] とすれば、明らかに$~f+g=g+f=0~$となる。
また、$H~$が群なので、任意の$~f,g,h\in\mathrm{Hom}(G,H)~$に対して \begin{align} ((f+g)+h)(x) &= (f(x)+g(x))+h(x)\\ &= f(x)+(g(x)+h(x))\\ &= (f+(g+h))(x) \end{align} がすべての$~x\in G~$で成り立つ。
よって、$(f+g)+h=f+(g+h)~$となる。
さらに、$H~$の可換性から、すべての$~f,g\in\mathrm{Hom}(G,H)~$に対して$~f+g = g+f~$が成立する。
$$\square$$
任意の$~f\in\mathrm{Hom}(G,H)~$に対して \[ g(x) = -f(x) ~~~~~ (x\in G) \] とすれば、明らかに$~f+g=g+f=0~$となる。
また、$H~$が群なので、任意の$~f,g,h\in\mathrm{Hom}(G,H)~$に対して \begin{align} ((f+g)+h)(x) &= (f(x)+g(x))+h(x)\\ &= f(x)+(g(x)+h(x))\\ &= (f+(g+h))(x) \end{align} がすべての$~x\in G~$で成り立つ。
よって、$(f+g)+h=f+(g+h)~$となる。
さらに、$H~$の可換性から、すべての$~f,g\in\mathrm{Hom}(G,H)~$に対して$~f+g = g+f~$が成立する。
さらに、$A~$が可換なら$~\mathrm{Hom}_A(M,N)~$は$A$加群となることがわかっている。
命題6
$A~$を可換環、$M,N~$を$A$加群とする。任意の$~a\in A, f\in\mathrm{Hom}_A(M,N)~$に対して$~af\in\mathrm{Hom}_A(M,N)~$を \[ (af)(x) = af(x) ~~~~~ (x\in M) \] となるように定める。
これによって$~\mathrm{Hom}_A(M,N)~$は左$A$加群となる。
まず、写像$~(a,f)\mapsto af~$がwell-definedであることを示す。
任意の$~a\in A,f\in\mathrm{Hom}_A(M,N)~$に対して \begin{align} (af)(x+y) &= af(x+y)\\ &= a(f(x)+f(y))\\ &= af(x)+af(y)\\ &= (af)(x)+(af)(y) \end{align} \begin{align} (af)(bx) &= af(bx)\\ &= a(bf(x))\\ &= (ab)f(x)\\ &= (ba)f(x)\\ &= b(af(x))\\ &= b((af)(x)) \end{align} がすべての$~b\in A, x\in M~$について成り立つ。
よって、$af\in\mathrm{Hom}_A(M,N)~$である。
任意に$~a,b\in A,f,g\in\mathrm{Hom}_A(M,N)~$をとる。
\[ (1f)(x) = 1f(x) = f(x) \] \begin{align} ((ab)f)(x) &= (ab)f(x)\\ &= a(bf(x))\\ &= a(bf)(x)\\ &= (a(bf))(x) \end{align} \begin{align} ((a+b)f)(x) &= (a+b)f(x)\\ &= af(x)+bf(x)\\ &= (af)(x)+(bf)(x)\\ &= (af+bf)(x) \end{align} \begin{align} (a(f+g))(x) &= a(f+g)(x)\\ &= a(f(x)+g(x))\\ &= af(x)+ag(x)\\ &= (af)(x)+(ag)(x)\\ &= (af+ag)(x) \end{align} がすべての$~x\in M~$で成り立つ。
$$\square$$
任意の$~a\in A,f\in\mathrm{Hom}_A(M,N)~$に対して \begin{align} (af)(x+y) &= af(x+y)\\ &= a(f(x)+f(y))\\ &= af(x)+af(y)\\ &= (af)(x)+(af)(y) \end{align} \begin{align} (af)(bx) &= af(bx)\\ &= a(bf(x))\\ &= (ab)f(x)\\ &= (ba)f(x)\\ &= b(af(x))\\ &= b((af)(x)) \end{align} がすべての$~b\in A, x\in M~$について成り立つ。
よって、$af\in\mathrm{Hom}_A(M,N)~$である。
任意に$~a,b\in A,f,g\in\mathrm{Hom}_A(M,N)~$をとる。
\[ (1f)(x) = 1f(x) = f(x) \] \begin{align} ((ab)f)(x) &= (ab)f(x)\\ &= a(bf(x))\\ &= a(bf)(x)\\ &= (a(bf))(x) \end{align} \begin{align} ((a+b)f)(x) &= (a+b)f(x)\\ &= af(x)+bf(x)\\ &= (af)(x)+(bf)(x)\\ &= (af+bf)(x) \end{align} \begin{align} (a(f+g))(x) &= a(f+g)(x)\\ &= a(f(x)+g(x))\\ &= af(x)+ag(x)\\ &= (af)(x)+(ag)(x)\\ &= (af+ag)(x) \end{align} がすべての$~x\in M~$で成り立つ。