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環上の加群 (4)剰余加群


 $A~$を環、$M~$を左$A$加群、$N\subset M~$を部分$A$加群とする。
$M~$は可換群なので、$N~$は$~M~$の正規部分群である。
よって、剰余群$~M/N~$が得られる。
$M/N~$の任意の元は$~x\in M~$を用いて$~x+N~$と表され、これと$~a\in A~$に対して \[ a(x+N) = (ax)+N \] となるように定める。
$x,x'\in M~$に対して$~x+N=x'+N~$なら、$x'=x+k~$となる$~k\in N~$がとれる。
このとき、任意の$~a\in A~$に対して \[ ax' = a(x+k) = ax+ak \] となる。
$N~$は$~M~$の部分$A$加群なので$~ak\in N~$であり、$ax'\in ax+N~$となる。
したがって、この写像はwell-definedである。
補題7
このとき、$M/N~$は左$A$加群である。

$a,b\in A, X,Y\in M/N~$を任意にとる。
$X=x+N,Y=y+N~$となる$~x,y\in M~$がとれる。
\[ 1X = 1(x+N) = 1x+N = x+N = X \] \begin{align} (ab)X &= (ab)(x+N)\\ &= (ab)x+N\\ &= a(bx)+N\\ &= a(bx+N)\\ &= a(b(x+N))\\ &= a(bX) \end{align} \begin{align} (a+b)X &= (a+b)(x+N)\\ &= (a+b)x+N\\ &= (ax+bx)+N\\ &= (ax+N)+(bx+N)\\ &= a(x+N)+b(x+N)\\ &= aX+bX \end{align} \begin{align} a(X+Y) &= a((x+y)+N)\\ &= a(x+y)+N\\ &= (ax+ay)+N\\ &= (ax+N)+(ay+N)\\ &= a(x+N)+a(y+N)\\ &= aX+aY \end{align} が成り立つ。
$$\square$$

この左$A$加群$~M/N~$を$~N~$による$~M~$の剰余加群という。
$A~$が斜体の場合は剰余空間という。

命題8
$A~$を環、$M~$を左$A$加群、$N\subset M~$を部分$A$加群とする。
このとき、写像$~\pi:M\to M/N~;~x\mapsto x+N~$は$~A$準同型でもある。

$\pi~$は群において自然な準同型である。
任意の$~a\in A,x\in M~$に対して、 \[ \pi(ax) = (ax)+N = a(x+N) = a\pi(x) \] となるので、$\pi~$は$~A$準同型である。
$$\square$$

(1)環上の加群
(2)部分加群
(3)準同型写像
(4)剰余加群