title

環上の加群 (8)直積・直和


 $A~$を環、$I~$を集合とする。
各$~i\in I~$に対して、左$A$加群$~M_i~$が与えられているとする。
このとき、直積$~\displaystyle\prod_{i\in I}M_i~$は可換群となる。
また、$A~$からの作用も成分ごとに計算することで$~\displaystyle\prod_{i\in I}M_i~$は左$~A~$加群となる。
さらに、各$~i\in I~$に対する射影$~\displaystyle\mathrm{pr}_i:\prod_{j\in I}M_j\to M_i~$は$~A$準同型となる。

定理16
$A~$を環、$I~$を集合、$\{M_i\}_{i\in I}~$を左$A$加群の族、$N~$を左$A$加群とする。
各$~i\in I~$に対して$~A$準同型$~f_i:N\to M_i~$が与えられているとする。
このとき、各$~i\in I~$に対して$~f_i=\mathrm{pr}_i\circ f~$となる$~A$準同型$~\displaystyle f:N\to\prod_{j\in I}M_j~$がただ1つ存在する。

条件を満たすためには、各$~x\in N~$に対して \[ f(x) = (f_i(x))_{i\in I} \] とするしかない。

$f~$を上の定義による写像とする。
このとき、任意の$~x,y\in N,a\in A~$に対して \begin{align} f(x+y) &= (f_i(x+y))\\ &= (f_i(x)+f_i(y))\\ &= (f_i(x))+(f_i(y))\\ &= f(x)+f(y) \end{align} \begin{align} f(ax) &= (f_i(ax))\\ &= (af_i(x))\\ &= a(f_i(x))\\ &= af(x) \end{align} となるので、$f~$は$~A$準同型である。
$$\square$$


 直積$~\displaystyle\prod_{i\in I}M_i~$の元のうち、有限個の成分を除いてすべて$0$であるような元全体を$~\displaystyle\bigoplus_{i\in I}M_i~$と書く。
この$~\displaystyle\bigoplus_{i\in I}M_i~$を$~\{M_i\}~$の直和という。
また、各$~i\in I~$に対して、写像$~\displaystyle\mathrm{in}_i:M_i\to\bigoplus_{j\in I}M_j~$を \[ \mathrm{pr}_j\circ\mathrm{in}_i=\left\{ \begin{array}{ll} \mathrm{id}_{M_i} & (j=i)\\ 0 & (j\neq i) \end{array} \right. \] となるように定める。
つまり、$x\in M_i~$に対して、$\mathrm{in}_i(x)~$は第$~i~$成分のみ$~x~$であり、その他の成分はすべて$0$であるような元である。
この写像$~\displaystyle\mathrm{in}_i:M_i\to\bigoplus_{i\in I}M_i~$は$~A$準同型である。
$I~$が有限集合の場合は、明らかに直積と直和は等しくなる。

定理17
$A~$を環、$I~$を集合、$\{M_i\}_{i\in I}~$を左$A$加群の族、$N~$を左$A$加群とする。
各$~i\in I~$に対して$~A$準同型$~f_i:M_i\to N~$が与えられているとする。
このとき、各$~i\in I~$に対して$~f_i=f\circ\mathrm{in}_i~$となる$~A$準同型$~\displaystyle f:\bigoplus_{j\in I}M_j\to N~$がただ1つ存在する。

写像$~\displaystyle f:\bigoplus_{i\in I}M_i\to N~$を各$~\displaystyle(x_i)_{i\in I}\in\bigoplus_{i\in I}M_i~$に対して \[ f((x_i)) = \sum_{i\in I}f_i(x_i) \] と定める。
各$~x_i~$は有限個を除いてすべて$0$なので、右辺は有限和となり定義可能である。

このとき、任意の$~\displaystyle(x_i),(y_i)\in\bigoplus_{i\in I}M_i,a\in A~$に対して \begin{align} f((x_i)+(y_i)) &= f((x_i+y_i))\\ &= \sum_{i\in I}f_i(x_i+y_i)\\ &= \sum_{i\in I}(f_i(x_i)+f_i(y_i))\\ &= \sum_{i\in I}f_i(x_i) + \sum_{i\in I}f_i(y_i)\\ &= f((x_i))+f((y_i)) \end{align} \begin{align} f(a(x_i)) &= f((ax_i))\\ &= \sum_{i\in I}f_i(ax_i)\\ &= \sum_{i\in I}af_i(x_i)\\ &= a\sum_{i\in I}f_i(x_i)\\ &= af((x_i)) \end{align} となるので$~f~$は$~A$準同型である。
また、$f_i=f\circ\mathrm{in}_i~$が成り立つことは明らかである。

また、写像$~\displaystyle g:\bigoplus_{i\in I}M_i\to N~$が$~f_i=g\circ\mathrm{in}_i~$を満たしているとする。
このとき、任意の$~\displaystyle(x_i),(y_i)\in\bigoplus_{i\in I}M_i,a\in A~$に対して \begin{align} g((x_i)) &= g\left(\sum_{i\in I}\mathrm{in}_i(x_i)\right)\\ &= \sum_{i\in I}g(\mathrm{in}_i(x_i))\\ &= \sum_{i\in I}f_i(x_i)\\ &= f((x_i)) \end{align} となるので、$g=f~$である。
$$\square$$


 各$~M_i~$がすべて等しい(左$A$加群$~M~$があり$~M_i=M~$となる)とき、直積や直和を \[ \prod_{i\in I}M_i = \prod_IM ~(=M^I) \] \[ \bigoplus_{i\in I}M_i = \bigoplus_IM \] と書く。