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環上の加群 (11)ねじれ


 $A~$を整域、$M~$を$A$加群とする。
\[ {}^{\exists}a\in A\setminus\{0\}~\mathrm{s.t.}~ax=0 \] を満たす元$~x\in M~$を$~M~$のねじれ元(torsion element)という。
$M~$のねじれ元全体を$~M_{\mathrm{tor}}~$と書き、ねじれ部分加群(torsion submodule)という。
$M_{\mathrm{tor}}=\{0\}~$のとき、$M~$にはねじれがないという。

命題24
$A~$を整域、$M~$を$A$加群とする。
このとき、$M_{\mathrm{tor}}~$は$~M~$の部分$A$加群であり、剰余加群$~M/M_{\mathrm{tor}}~$にはねじれがない。

$0\in M_{\mathrm{tor}}~$は明らかである。
$x,y\in M_{\mathrm{tor}}~$を任意にとる。
このとき、$a,b\in A\setminus\{0\}~$があり、$ax=by=0~$となる。
\begin{align} ab(x+y) &= (ab)x+(ab)y\\ &= b(ax)+a(by)\\ &= 0+0 =0 \end{align} となるので$~x+y\in M_{\mathrm{tor}}~$である。
また、$a(-x)=-(ax)=0~$より$~-x\in M_{\mathrm{tor}}~$となる。

さらに、$a'\in A~$を任意にとれば \[ a(a'x)=a'(ax)=a'0=0 \] となるので、$a'x\in M_{\mathrm{tor}}~$となる。
したがって、$M_{\mathrm{tor}}~$は$~M~$の部分$A$加群である。

$X\in M/M_{\mathrm{tor}}~$をとり、$X~$はねじれ元であるとする。
このとき、$a\in A\setminus\{0\}~$があり$~aX=0~(=M_\mathrm{tor})~$となる。
$X\in M/M_{\mathrm{tor}}~$より$~X=x+M_{\mathrm{tor}}~$となる$~x\in M~$がある。
\[ ax+M_{\mathrm{tor}} = a(x+M_{\mathrm{tor}}) = M_{\mathrm{tor}} \] となるので、$ax\in M_{\mathrm{tor}}~$である。
よって、$b(ax)=0~$となるような$~b\in A\setminus\{0\}~$がある。
$A~$は整域であり、$a,b\neq0~$なので$~ba\neq0~$である。
$(ba)x=0~$なので$~x\in M_{\mathrm{tor}}~$となる。
したがって、$X=x+M_{\mathrm{tor}}=M_{\mathrm{tor}}~$である。
$$\square$$


命題25
$A~$を整域、$M~$を自由$A$加群とする。
このとき、$~M~$にはねじれがない。

$x\in M~$を$~M~$のねじれ元とする。
このとき、$ax=0~$となる$~a\in A\setminus\{0\}~$が存在する。
また、$M~$の基底$~S~$があり、$a_1,\dots,a_n\in A,s_1,\dots,s_n\in S~$を用いて \[ x = a_1s_1+\cdots+a_ns_n \] と表せる。
\[ (aa_1)s_1+\cdots+(aa_n)s_n = ax = 0 \] となるので、$aa_1=\cdots=aa_n=0~$である。
$a\neq0~$なので$~a_1=\cdots=a_n=0~$となる。
したがって、$x=0~$である。
よって、$M_{\mathrm{tor}}=\{0\}~$となる。
$$\square$$

この命題の対偶をとれば、ねじれのある($M_{\mathrm{tor}}\neq\{0\}~$となる)加群は自由加群でないことがわかる。

 $A~$を整域、$M~$を$A$加群とする。
\[ {}^{\forall}x\in M,{}^{\forall}a\in A,{}^{\exists}y\in M~\mathrm{s.t.}~x=ay \] を満たすとき、$M~$は可除加群であるという。