環論 (11)環の直積
$A_1,\dots,A_n~$を環、$A=A_1\times\dots\times A_n~$を集合としての直積とする。
$a_1,a_1'\in A_1,\dots,a_n,a_n'\in A_n~$として、この$~A~$上の演算を次のように定義する。 \begin{align} &加法:(a_1,\dots,a_n)+(a_1',\dots,a_n')=(a_1+a_1',\dots,a_n+a_n')\\ &乗法:(a_1,\dots,a_n)(a_1',\dots,a_n')=(a_1a_1',\dots,a_na_n') \end{align} 証明は省くが、この演算によって$~A~$は環になる。
この環$~A=A_1\times\dots\times A_n~$を環$~A_1,\dots,A_n~$の直積という。
このとき、次の$(1)$-$(3)$が成り立つ。 \begin{align} (1)&~I_i+\prod_{j\neq i}I_j=A~~~~~(i=1,\dots,n)\\ (2)&~I_1\cap\cdots\cap I_n=I_1\cdots I_n\\ (3)&~A/(I_1\cap\cdots\cap I_n)\simeq A/I_1\times\cdots\times A/I_n \end{align}
$(1)~$
$i\in\{1,\dots,n\}~$を任意にとる。
各$~j\in\{1,\dots,n\}\setminus\{i\}~$に対して、$x_j+y_j=1~$となるように$~x_j\in I_i~,~y_j\in I_j~$をとる(これは仮定$~I_i+I_j=A~$によって正当化される)。
このとき、
$$
\prod_{j\neq i}(x_j+y_j)=1
$$
である。
左辺を展開すると、$\displaystyle\prod_{j\neq i}y_j~$の項以外はすべて$~I_i~$の元である。
$\displaystyle\prod_{j\neq i}y_j\in\prod_{j\neq i}I_j~$なので、$\displaystyle1\in I_i+\prod_{j\neq i}I_j~$となる。
$~\displaystyle I_i+\prod_{j\neq i}I_j~$は$~A~$の両側イデアルなので、$\displaystyle I_i+\prod_{j\neq i}I_j=A~$である。
$(2)~$
$n=1~$の場合は明らかである。
次に$~n=2~$の場合を示す。
$I_1I_2\subset I_1\cap I_2~$となるのは自明である。
$x+y=1~$となる$~x\in I_1,y\in I_2~$をとる。
$a\in I_1\cap I_2~$なら、$a=a(x+y)=ax+ay~$である。
ここで、$a\in I_2~$なので$~ax\in I_2I_1=I_1I_2~$であり、$a\in I_1~$なので$~ay\in I_1I_2~$である。
よって、$a\in I_1I_2~$となるので$~I_1\cap I_2=I_1I_2~$である。
$n=k~$に対して、
$$
I_1\cap\cdots\cap I_k=I_1\cdots I_k
$$
となると仮定する。
$(1)$より$I_1\cdots I_k+I_{k+1}=A~$なので、$n=2~$の場合より、
\begin{split}
I_1\cap\cdots\cap I_{k+1}&=(I_1\cap\cdots\cap I_k)\cap I_{k+1}\\
&=(I_1\cdots I_k)\cap I_{k+1}\\
&=(I_1\cdots I_k)I_{k+1}
\end{split}
となり、$n=k+1~$のときも成り立つ。
帰納法より任意の$~n\in\mathbb{Z}_{\gt}~$について、
$$
I_1\cap\cdots\cap I_n=I_1\cdots I_n
$$
が成り立つ。
$(3)~$
$n=1~$のときは明らかである。
次に$~n=2~$の場合を示す。
$A~$から$~A/I_1\times A/I_2~$への準同型$~\varphi~$を
$$
\varphi:A\longrightarrow A/I_1\times A/I_2~;~a\longmapsto(a+I_1,a+I_2)
$$
と定める。
明らかに$~\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi=I_1\cap I_2~$である。
$x+y=1~$となるように$~x\in I_1,y\in I_2~$をとる。
$a,b\in A~$なら、$ay+bx=a+(b-a)x=b+(a-b)y~$なので、$ay+bx\in a+I_1,ay+bx\in b+I_2~$となる。
よって、$\varphi~$は全射である。
したがって、第一同型定理より$~A/(I_1\cap I_2)\simeq A/I_1\times A/I_2~$となる。
$n=k~$のとき、$A/(I_1\cap\cdots\cap I_k)\simeq A/I_1\times\cdots\times A/I_k~$となると仮定する。
$J=I_1\cdots I_k~$とおき、$(2)$を適用して$~J=I_1\cap\cdots\cap I_k~$とする。
$(1)$と$~n=2~$の場合より、
\begin{split}
A/(I_1\cap\cdots\cap I_{k+1})&=A/(J\cap I_{k+1})\\
&\simeq A/J\times A/I_{k+1}\\
&\simeq A/I_1\times\cdots\times A/I_k\times A/I_{k+1}
\end{split}
となり、$n=k+1~$のときも成り立つ。
帰納法より任意の$~n\in\mathbb{Z}_{\gt}~$について、
$$
A/(I_1\cap\cdots\cap I_n)\simeq A/I_1\times\cdots\times A/I_n
$$
が成り立つ。
可換環$~A~$のイデアル$~I,J~$が$~I+J=A~$を満たすとき、$I,J~$は互いに素であるという。
$I,J~$が互いに素で$~m,n\in\mathbb{Z}_{\gt}~$なら、$I^m,J^n~$も互いに素である。
よって、定理25の仮定が成り立っているなら、任意の正整数$~a_1,\dots,a_n~$に対して、 $$ A/({I_1}^{a_1}\cap\cdots\cap{I_n}^{a_n})\simeq A/{I_1}^{a_1}\times\cdots\times A/{I_n}^{a_n} $$ が成り立つ。