環論 (6)生成されたイデアル
補題10
$A~$を環、$S~$を$~A~$の空でない部分集合とする。ある有限個の$~a_1,\dots,a_n\in A,s_1,\dots,s_n\in S~$を用いて $$ \sum_{i=1}^n a_is_i=a_1s_1+\cdots+a_ns_n $$ という形をした元全体の集合は$~A~$の左イデアルになる。
$a_1s_1+\cdots+a_ns_n~$という形をした元全体の集合を$~I~$とおく。
$s\in S~$に対して、$s=1\cdot s~$なので$~s\in I~$となり、$I\neq\emptyset~$である。
任意に$~x,x'\in I,a\in A~$をとる。
このとき、ある有限個の$~a_1,\dots,a_m,a_1',\dots,a_n'\in A~$と$~s_1,\dots,s_m,s_1',\dots,s_n'\in S~$があり、 \begin{align} &x=a_1s_1+\cdots+a_ms_m\\ &x'=a_1's_1'+\cdots+a_n's_n' \end{align} となっている。
よって、$I~$は$~A~$の左イデアルである。
$$\square$$
$s\in S~$に対して、$s=1\cdot s~$なので$~s\in I~$となり、$I\neq\emptyset~$である。
任意に$~x,x'\in I,a\in A~$をとる。
このとき、ある有限個の$~a_1,\dots,a_m,a_1',\dots,a_n'\in A~$と$~s_1,\dots,s_m,s_1',\dots,s_n'\in S~$があり、 \begin{align} &x=a_1s_1+\cdots+a_ms_m\\ &x'=a_1's_1'+\cdots+a_n's_n' \end{align} となっている。
\begin{align}
&x+x'=a_1s_1+\cdots+a_ms_m+a_1's_1'+\cdots+a_n's_n'\\
&ax=(aa_1)s_1+\cdots+(aa_m)s_m
\end{align}
となるので、$x+x',ax\in I~$である。よって、$I~$は$~A~$の左イデアルである。
$A~$を環、$S~$を$~A~$の空でない部分集合とする。
ある有限個の$~a_1,\dots,a_n\in A,s_1,\dots,s_n\in S~$を用いて $$ \sum_{i=1}^n a_is_i=a_1s_1+\cdots+a_ns_n $$ という形をした元全体の集合を$S~$で生成された左イデアルという。
$I~$を$~S~$で生成された左イデアルとするとき、$S~$を$~I~$の生成系、$S~$の元を$~I~$の生成元という。
左イデアル$~I~$が有限集合で生成されるなら、$I~$は有限生成であるという。
有限集合$~S=\{s_1,\dots,s_n\}~$で生成された左イデアルは$~As_1+\cdots+As_n~$と書く。
また、1つの元で生成された左イデアルを左単項イデアルという。
同じようにして、環$~A~$の空でない部分集合$~S~$に対して、ある有限個の$~a_1,\dots,a_n\in A,s_1,\dots,s_n\in S~$を用いて \[ \sum_{i=1}^n s_ia_i=s_1a_1+\cdots+s_na_n \] という形をした元全体の集合は$~A~$の右イデアルとなることがわかる。
さらに、ある有限個の$~a_1,\dots,a_n,b_1,\dots,b_n\in A,s_1,\dots,s_n\in S~$を用いて \[ \sum_{i=1}^n a_is_ib_i=a_1s_1b_1+\cdots+a_ns_nb_n \] という形をした元全体の集合は$~A~$の両側イデアルとなる。
左イデアルの場合と同じように、$S~$で生成された右イデアルや$~S~$で生成された両側イデアル、有限生成、右単項イデアルや両側単項イデアルなどの言葉を使う。
有限集合$~S=\{s_1,\dots,s_n\}~$で生成された右イデアルは$~s_1A+\cdots+s_nA~$と書き、$\{s_1,\dots,s_n\}~$で生成された両側イデアルは$~As_1A+\cdots+As_nA~$や$~(s_1,\dots,s_n)~$と書く。
命題11
$A~$を環、$S\subset A~$とする。このとき、$S~$で生成された左イデアルは$~S~$を含む最小の左イデアルである。
$I~$を$~S~$で生成された左イデアルとする。
また、$J\subset A~$を左イデアルとし、$S\subset J~$と仮定する。
$x\in I~$を任意にとる。
このとき、$a_1,\dots,a_n\in A,s_1,\dots,s_n\in S~$があり、 $$ x=a_1s_1+\cdots+a_ns_n $$ となっている。
$i=1,\dots,n~$に対して、$s_i\in J~$なので$~a_is_i\in J~$となる。
さらに、$x=a_1s_1+\cdots+a_ns_n\in J~$である。
よって、$I\subset J~$となる。
$$\square$$
また、$J\subset A~$を左イデアルとし、$S\subset J~$と仮定する。
$x\in I~$を任意にとる。
このとき、$a_1,\dots,a_n\in A,s_1,\dots,s_n\in S~$があり、 $$ x=a_1s_1+\cdots+a_ns_n $$ となっている。
$i=1,\dots,n~$に対して、$s_i\in J~$なので$~a_is_i\in J~$となる。
さらに、$x=a_1s_1+\cdots+a_ns_n\in J~$である。
よって、$I\subset J~$となる。