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環論 (5)イデアル


 $A~$を環、$I\subset A~$を部分集合とする。 \begin{align} (1)&~IはAの加法に関して部分群\\ (2)&~{}^{\forall}a\in A,{}^{\forall}x\in I,ax\in I \end{align} を満たすとき、$I~$を$~A~$の左イデアルという。
また、$(2)$の代わりに \[ (2)'~{}^{\forall}a\in A,{}^{\forall}x\in I,xa\in I \] を満たすとき、$I~$を$~A~$の右イデアルという。
$I~$が左イデアルでも右イデアルでもあるとき(つまり条件$(1),(2),(2)'$を満たすとき)、$I~$を$~A~$の両側イデアルという。
$A~$が可換環なら、左イデアルも右イデアルもどちらも両側イデアルとなるので、単に$~A~$のイデアルという。
$\{0\},A~$は明らかに$~A~$の両側イデアルであり、これを$~A~$の自明なイデアルという。
また、$\{0\}~$を$~A~$の零イデアルという。
$A~$と異なる$~A~$の左[右,両側]イデアルを真の左[右,両側]イデアルという。

命題8
環$~A~$の部分集合$~I~$が$~A~$の左イデアルになるための必要十分条件は、次の条件$(1)$-$(3)$が成り立つことである。 \begin{align} (1)&~I\neq\emptyset\\ (2)&~{}^{\forall}x,y\in I,x+y\in I\\ (3)&~{}^{\forall}a\in A,{}^{\forall}x\in I,ax\in I \end{align}

$I~$を環$~A~$の部分集合とし、条件$(1)$-$(3)$を満たしているとする。
$x\in I~$なら、 \begin{align} &0=0\cdot x\in I\\ &-x=(-1)\cdot x\in I \end{align} となるので、$I~$は$~A~$の加法に関して部分群である。
よって、$I~$は$~A~$のイデアルである。
逆は明らかである。
$$\square$$

同様にして、環$~A~$の部分集合$~I~$が$~A~$の左イデアルになるための必要十分条件は、命題8の条件$(1),(2)$と($(3)$の代わりに) \[ (3)'~{}^{\forall}a\in A,{}^{\forall}x\in I,xa\in I \] を満たすことであるとわかる。
また、両側イデアルであるためにはこれら4つの条件を満たすことが必要十分である。

命題9
$A,B~$を可換環、$\varphi:A\to B~$を準同型とする。
このとき、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$は$~A~$の真の両側イデアルである。

$\varphi~$は加法に関して群の準同型なので、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$は加法に関して$~A~$の部分群である。
$a\in A,x\in\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$とすると、 \begin{align} &\varphi(ax)=\varphi(a)\varphi(x)=\varphi(a)\cdot0_B=0_B\\ &\varphi(xa)=\varphi(x)\varphi(a)=0_B\cdot\varphi(a)=0_B \end{align} となるので、$ax,xa\in\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$である。
よって、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$は$~A~$の両側イデアルとなる。
また、$\varphi(1_A)=1_B\neq0_B~$なので、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi\neq A~$である。
$$\square$$