環論 (9)環の準同型定理
定理16(準同型定理)
$A,B~$を環、$\varphi:A\to B~$を環準同型とする。$I~$を$~A~$の真の両側イデアルとして、$\pi:A\to A/I~$を自然な準同型とする。
このとき、$I\subset\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$なら、$\varphi=\psi\circ\pi~$となるような準同型写像$~\psi:A/I\to B~$がただ1つ存在する。
$A,B~$の加法だけに注目すれば、群の準同型定理からこれは成り立っている。
つまり、$A,B~$を加法による群、$\varphi:A\to B~$を群準同型、$I\triangleleft A~$と見ることで、$I\subset\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$なら、$\varphi=\psi\circ\pi~$となるような群準同型写像$~\psi:A/I\to B~$がただ1つ存在することがわかる。
そして、この$~\psi:A/I\to B~$は、$x\in A~$に対して、 $$ \psi(x+I)=\varphi(x) $$ とする写像である。
あとはこの$~\psi~$が環の準同型であることを見ればよい。
$x,y\in A~$に対して、$\varphi=\psi\circ\pi~$であり$~\varphi~$は環の準同型なので、 \begin{split} \psi((x+I)(y+I))&=\psi(xy+I)\\ &=\varphi(xy)\\ &=\varphi(x)\varphi(y)\\ &=\psi(x+I)\psi(y+I) \end{split} となる。
また、$A/I~$の乗法単位元は$~1_A+I~$であり \[ \psi(1_A+I)=\varphi(1_A)=1_B \] よって、$\psi~$は環の準同型である。
$$\square$$
つまり、$A,B~$を加法による群、$\varphi:A\to B~$を群準同型、$I\triangleleft A~$と見ることで、$I\subset\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$なら、$\varphi=\psi\circ\pi~$となるような群準同型写像$~\psi:A/I\to B~$がただ1つ存在することがわかる。
そして、この$~\psi:A/I\to B~$は、$x\in A~$に対して、 $$ \psi(x+I)=\varphi(x) $$ とする写像である。
あとはこの$~\psi~$が環の準同型であることを見ればよい。
$x,y\in A~$に対して、$\varphi=\psi\circ\pi~$であり$~\varphi~$は環の準同型なので、 \begin{split} \psi((x+I)(y+I))&=\psi(xy+I)\\ &=\varphi(xy)\\ &=\varphi(x)\varphi(y)\\ &=\psi(x+I)\psi(y+I) \end{split} となる。
また、$A/I~$の乗法単位元は$~1_A+I~$であり \[ \psi(1_A+I)=\varphi(1_A)=1_B \] よって、$\psi~$は環の準同型である。
定理17
$A~$を環、$I\subsetneq A~$を真の両側イデアルとする。$A~$の$~I~$を含む左イデアルの集合を$~\mathcal{X}$、$A/I~$の左イデアル全体の集合を$~\mathcal{Y}~$とする。
このとき、集合$~\mathcal{X},\mathcal{Y}~$は \[ \mathcal{X}\longrightarrow\mathcal{Y}~;~J\longmapsto J/I \] という写像によって1対1に対応する。
群論.定理30より、$A~$を加法による群として見ると、$\mathcal{X}'~$を$~A~$の$~I~$を含む部分群全体、$\mathcal{Y}'~$を$~A/I~$の部分群全体として見れば、2つの写像
\begin{align}
&f':\mathcal{X}'\longrightarrow\mathcal{Y}'~;~J\longmapsto\pi(J)~(=J/I)\\
&g':\mathcal{Y}'\longrightarrow\mathcal{X}'~;~K\longmapsto\pi^{-1}(K)
\end{align}
は互いに逆写像である。
あとはこれらを$~\mathcal{X},\mathcal{Y}~$に制限すればよい。
$J\in\mathcal{X}~$を任意にとる。
$\overline{a}\in A/I,\overline{x}\in\pi(J)~$なら、$\overline{a}=\pi(a),\overline{x}=\pi(x)~$とする$~a\in A,x\in J~$がある。
このとき、$\overline{a}\cdot\overline{x}=\pi(a)\pi(x)=\pi(ax)~$である。
$J~$は左イデアルなので、$ax\in J~$となり、$\overline{a}\cdot\overline{x}\in\pi(J)~$である。
$\pi(J)=f'(J)~$は加法に関して部分群なので左イデアルであり、$f'(J)\in\mathcal{Y}~$となる。
よって、写像$~f':\mathcal{X}'\longrightarrow\mathcal{Y}'~$を$~\mathcal{X}~$に制限した写像$~f~$は$~\mathcal{X}~$から$~\mathcal{Y}~$への写像である。
$K\in\mathcal{Y}~$を任意にとる。
$a\in A,x\in \pi^{-1}(K)~$なら、$\pi(x)\in K~$で$~K~$は左イデアルなので、$\pi(ax)=\pi(a)\pi(x)\in K~$となる。
よって、$ax\in\pi^{-1}(K)=g'(K)~$である。
$g'(K)~$は加法に関して部分群なので左イデアルであり、$I~$を含むので$~g'(K)\in\mathcal{X}~$となる。
よって、写像$~g':\mathcal{Y}'\longrightarrow\mathcal{X}'~$を$~\mathcal{Y}~$に制限した写像$~g~$は$~\mathcal{Y}~$から$~\mathcal{X}~$への写像である。
$$\square$$
あとはこれらを$~\mathcal{X},\mathcal{Y}~$に制限すればよい。
$J\in\mathcal{X}~$を任意にとる。
$\overline{a}\in A/I,\overline{x}\in\pi(J)~$なら、$\overline{a}=\pi(a),\overline{x}=\pi(x)~$とする$~a\in A,x\in J~$がある。
このとき、$\overline{a}\cdot\overline{x}=\pi(a)\pi(x)=\pi(ax)~$である。
$J~$は左イデアルなので、$ax\in J~$となり、$\overline{a}\cdot\overline{x}\in\pi(J)~$である。
$\pi(J)=f'(J)~$は加法に関して部分群なので左イデアルであり、$f'(J)\in\mathcal{Y}~$となる。
よって、写像$~f':\mathcal{X}'\longrightarrow\mathcal{Y}'~$を$~\mathcal{X}~$に制限した写像$~f~$は$~\mathcal{X}~$から$~\mathcal{Y}~$への写像である。
$K\in\mathcal{Y}~$を任意にとる。
$a\in A,x\in \pi^{-1}(K)~$なら、$\pi(x)\in K~$で$~K~$は左イデアルなので、$\pi(ax)=\pi(a)\pi(x)\in K~$となる。
よって、$ax\in\pi^{-1}(K)=g'(K)~$である。
$g'(K)~$は加法に関して部分群なので左イデアルであり、$I~$を含むので$~g'(K)\in\mathcal{X}~$となる。
よって、写像$~g':\mathcal{Y}'\longrightarrow\mathcal{X}'~$を$~\mathcal{Y}~$に制限した写像$~g~$は$~\mathcal{Y}~$から$~\mathcal{X}~$への写像である。