環論 (8)剰余環
$I~$を環$~A~$の両側イデアルとする。
$A~$は加法に関して可換群であり、$I~$は$~A~$の加法に関して$~A~$の部分群なので、$I~$は$~A~$の加法に関して$~A~$の正規部分群になる。
よって、加法に関しての剰余群$~A/I~$が考えられる。
$A/I~$の任意の元は代表元$~x\in A~$を用いて$~x+I~$という形をしている。
$x,y\in A~$に対して、 $$ (x+I)(y+I)=xy+I $$ となるように$~A/I~$上の積を定義する。
$x,x',y,y'\in A~$で$~x+I=x'+I,y+I=y'+I~$とすると、$x'\in x+I,y'\in y+I~$なので、$x'=x+w,y'=y+z~$となる$~w,z\in I~$がとれる。 $$ x'y'=(x+w)(y+z)=xy+(xz+wy+wz) $$ $I~$は両側イデアルなので$~xz+wy+wz\in I~$であり、$x'y'\in xy+I~$となる。
よって、$xy+I=x'y'+I~$となり、この積は代表元の取り方によらない。
したがって、この定義はwell-definedである。
定理14
$A~$を環、$I\subsetneq A~$を真の両側イデアルとする。このとき、$A/I~$は2つの演算 \begin{align} &加法:(x+I)+(y+I)=(x+y)+I\\ &乗法:(x+I)(y+I)=xy+I \end{align} によって環になる。
$A/I~$上の演算は代表元の$~A~$の元としての演算によるので、$A~$で成り立つ性質は$~A/I~$でも当然成り立つ。
よって、$A/I~$は環である。
$$\square$$
よって、$A/I~$は環である。
また、$A/I~$が体になるときは剰余体という。
命題15
$A~$を環、$I~$を$~A~$の真の両側イデアルとする。このとき、$\pi:A\to A/I~;~x\mapsto x+I~$は全射準同型である。
また、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\pi=I~$である。
$\pi~$が全射であることは$~A/I~$の定義から明らかである。
また、$A/I~$上の演算の定義より明らかに$~\pi~$は演算を保つ。
$A/I~$の乗法単位元は$~1+I~$なので、$\pi~$は環準同型である。
$A/I~$の加法単位元は$~0+I=I~$なので、 $x\in A~$で$~\pi(x)=x+I=I~$であることと$~x\in I~$であることは同値である。
よって、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\pi=I~$である。
$$\square$$
また、$A/I~$上の演算の定義より明らかに$~\pi~$は演算を保つ。
$A/I~$の乗法単位元は$~1+I~$なので、$\pi~$は環準同型である。
$A/I~$の加法単位元は$~0+I=I~$なので、 $x\in A~$で$~\pi(x)=x+I=I~$であることと$~x\in I~$であることは同値である。
よって、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\pi=I~$である。