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整数 (8)再帰的定義


定理26
$X~$を空でない集合、$x_0\in X~$を元、$g:X\to X~$を全単射とする。
このとき、次の条件を満たす写像$~f:\mathbb{Z}\to X~$がただ1つ存在する。 \begin{align} (1)&~f(0)=x_0\\ (2)&~f(n+1)=g(f(n)) \end{align}
自然数.定理1より \begin{align} (1)_1&~f_1(0)=x_0\\ (2)_1&~f_1(n+1)=g(f_1(n)) \end{align} を満たす写像$~f_1:\mathbb{N}\to X~$が存在する。
また、同様に \begin{align} (1)_2&~f_2(0)=x_0\\ (2)_2&~f_2(n+1)=g^{-1}(f_2(n)) \end{align} を満たす写像$~f_2:\mathbb{N}\to X~$が存在する。
ここで、写像$~f:\mathbb{Z}\to X~$を \[ f(n) = \left\{ \begin{array}{ll} f_1(n) & (n\ge0) \\ f_2(-n) & (n\lt0) \end{array} \right. \] で定める。
これが求めるものであることを示す。

$f(0)=f_1(0)=x_0~$なので$(1)$が成り立つ。
任意に$~n\in\mathbb{Z}~$をとる。
$n\ge0~$のとき、 \[ f(n+1) = f_1(n+1) = g(f_1(n)) = g(f(n)) \] となる。
また、$n=-1~$のときは、 \[ f(0) = x_0 = f_2(0) = g(f_2(1)) = g(f(-1)) \] である。
$n\lt-1~$のとき、 \[ f(n+1) = f_2(-(n+1)) = g(f_2(-n)) = g(f(n)) \] となるので、以上より$(2)$が成り立つ。

写像$~f':\mathbb{Z}\to X~$を条件$(1),(2)$を満たすものとする。
$f(0)=x_0=f'(0)~$である。
$a\in\mathbb{Z}~$を任意にとり、$f(a)=f'(a)~$とする。
このとき、 \[ f(a+1) = g(f(a)) = g(f'(a)) = f'(a+1) \] \[ f(a-1) = g^{-1}(f(a)) = g^{-1}(f'(a)) = f'(a-1) \] が成り立つ。
定理20(3)より$~f=f'~$である。 $$\square$$
$$\square$$

また、写像$~g~$は全単射なので逆写像$~g^{-1}~$があり、 \[ f(n-1)=g^{-1}(f(n)) \] が成り立つ。

定理27
$X~$を空でない集合、$x_0\in X~$を元、$g:X\times X\to X,h:X\to X~$を写像とする。
\[ {}^{\forall}x,x'\in X,{}^{\exists!}y\in X~\mathrm{s.t.}~x'=g(y,x) \] が成り立つとき、次の条件を満たす写像$~f:\mathbb{Z}\times X\to X~$がただ1つ存在する。 \begin{align} (1)&~f(0,x)=h(x)\\ (2)&~f(n+1,x)=g(f(n,x),x) \end{align}
$x\in X~$を任意にとる。
写像$~g_x:X\to X~$を \[ g_x(y)=g(y,x) ~~~~~(y\in X) \] となるように定める。
仮定よりこれは全単射である。
定理26を適用すれば \begin{align} (1)&~ f_x(0) = h(x)\\ (2)&~ f_x(n+1) = g_x(f_x(n)) ~(=g(f_x(n),x)) \end{align} を満たす写像$~f_x:\mathbb{Z}\to X~$がただ1つ存在する。

ここで、写像$~f:\mathbb{Z}\times X\to X~$を \[ f(n,x) = f_x(n) \] となるように定める。
このとき、 \begin{align} (1)&~ f(0,x) = h(x)\\ (2)&~ f(n+1,x) = g(f(n,x),x) \end{align} が成り立つ。
$$\square$$

また、$x,x'\in X~$に対して仮定から一意的に存在する$~y\in X~$を対応させる写像を$~g':X\times X\to X~$とする。 \[ x'=g(y,x) ~\Longleftrightarrow~ y=g'(x',x) \] このとき、 \[ f(n-1,x)=g'(f(n,x),x) \] が成り立つ。

系28
$A~$を環とすれば、環準同型写像$~f:\mathbb{Z}\to A~$がただ1つ存在する。
写像$~g:A\to A~$を \[ g(a)=a+1_A \] と定め、$A,0_A,g~$に対して定理26を用いれば \begin{align} (1)&~ f(0) = 0_A\\ (2)&~ f(n+1) = f(n)+1_A \end{align} を満たす写像$~f:\mathbb{Z}\to A~$がただ1つ存在する。

このとき、 \[ f(1) = f(0+1) = f(0)+1_A = 0_A+1_A = 1_A \] となる。

主張28.1
任意の$~n,m\in\mathbb{Z}~$に対して次が成り立つ。 \[ f(n+m)=f(n)+f(m) \]

任意に$~n\in\mathbb{Z}~$をとる。
\[ f(n+0) = f(n) = f(n)+0_A = f(n)+f(0) \] は成り立つ。
任意に$~m\in\mathbb{Z}~$をとり \[ f(n+m) = f(n)+f(m) \] が成り立っていると仮定すると \begin{align} f(n+(m+1)) &= f((n+m)+1)\\ &= f(n+m)+1_A\\ &= f(n)+f(m)+1_A\\ &= f(n)+f(m+1) \end{align} \begin{align} f(n+(m-1)) &= f((n+m)-1)\\ &= f(n+m)-1_A\\ &= f(n)+f(m)-1_A\\ &= f(n)+f(m-1) \end{align} となるので、定理20(3)より \[ {}^{\forall}m\in\mathbb{Z},f(n+m)=f(n)+f(m) \] が成り立つ。
$$\square$$


主張28.2
任意の$~n,m\in\mathbb{Z}~$に対して次が成り立つ。 \[ f(nm)=f(n)f(m) \]

任意に$~n\in\mathbb{Z}~$をとる。
\[ f(n\cdot0) = f(0) = 0_A = f(n)0_A = f(n)f(0) \] は成り立つ。
任意に$~m\in\mathbb{Z}~$をとり \[ f(nm) = f(n)f(m) \] が成り立っていると仮定すると \begin{align} f(n(m+1)) &= f(nm+n)\\ &= f(nm)+f(n)\\ &= f(n)f(m)+f(n)\\ &= f(n)(f(m)+1_A)\\ &= f(n)f(m+1) \end{align} \begin{align} f(n(m-1)) &= f(nm-n)\\ &= f(nm)-f(n)\\ &= f(n)f(m)-f(n)\\ &= f(n)(f(m)-1_A)\\ &= f(n)f(m-1) \end{align} となるので、定理20(3)より \[ {}^{\forall}m\in\mathbb{Z},f(nm)=f(n)f(m) \] が成り立つ。
$$\square$$


したがって、$f:\mathbb{Z}\to A~$は環準同型である。

$g:\mathbb{Z}\to A~$を環準同型写像とする。
このとき、 \begin{align} g(0)&=0_A\\ g(1)&=1_A \end{align} が成り立つ。
また、任意の$~n\in\mathbb{Z}~$に対して \[ g(n+1)=g(n)+g(1)=g(n)+1_A \] となる。
したがって、環準同型$~g~$は \begin{align} (1)&~ g(0) = 0_A\\ (2)&~ g(n+1) = g(n)+1_A \end{align} を満たす。
$f~$の一意性から$~g=f~$である。
$$\square$$

この準同型$~f~$は$~\mathbb{Z}~$から$~A~$への自然な準同型と呼ばれ、$f(n)=n\cdot1_A~$などとも表される。
また、感覚的に \[ n\cdot1_A = \underbrace{1_A+\cdots+1_A}_{n} \] と表記することもある。
証明中にある通りこれは次を満たす。 \begin{align} (1)&~ 0\cdot1_A=0_A\\ (2)&~ (n+1)\cdot1_A=(n\cdot1_A)+1_A \end{align}
系29
$G~$を可換群とすれば、 \begin{align} (1)&~ f(0,x)=0_G\\ (2)&~ f(n+1,x)=f(n,x)+x \end{align} を満たす作用$~f:\mathbb{Z}\times G\to G~$がある。
また、これによって$G~$は$~\mathbb{Z}$加群となる。
写像$~g:G\times G\to G,h:G\to G~$を \begin{align} &g(x,y)=x+y\\ &h(x)=0_G \end{align} と定める。
任意の$~x,x'\in G~$に対して$~y=x'-x~$とすれば \[ x'=y+x=g(y,x) \] が成り立つ。
また、$y'\in G~$が$~x'=y'+x~$を満たすなら$~y'=x'-x~$である。
よって、定理27を適用することができ \begin{align} (1)&~ f(0,x) = h(x) = 0_G\\ (2)&~ f(n+1,x) = g(f(n,x),x) = f(n,x)+x \end{align} を満たす写像$~f:\mathbb{Z}\times G\to G~$が存在する。

任意の$~x\in G~$に対して
\[ f(1,x) = f(0,x)+x = 0_G+x = x \] が成り立つ。

主張29.1
任意の$~n,m\in\mathbb{Z},x\in G~$に対して次が成り立つ。 \[ f(n+m,x)=f(n,x)+f(m,x) \]

任意に$~n\in\mathbb{Z},x\in G~$をとる。
\begin{align} f(n+0,x) &= f(n,x)\\ &= f(n,x)+0_G\\ &= f(n,x)+f(0,x) \end{align} が成り立つ。
また、任意に$~m\in\mathbb{Z}~$をとり、$f(n+m,x)=f(n,x)+f(m,x)~$が成り立つと仮定する。
このとき、 \begin{align} f(n+(m+1),x) &= f((n+m)+1,x)\\ &= f(n+m,x)+x\\ &= f(n,x)+f(m,x)+x\\ &= f(n,x)+f(m+1,x) \end{align} \begin{align} f(n+(m-1),x) &= f((n+m)-1,x)\\ &= f(n+m,x)-x\\ &= f(n,x)+f(m,x)-x\\ &= f(n,x)+f(m-1,x) \end{align} となるので、定理20(3)より \[ {}^{\forall}m\in\mathbb{Z},f(n+m,x)=f(n,x)+f(m,x) \] が成り立つ。
$$\square$$


主張29.2
任意の$~n,m\in\mathbb{Z},x\in G~$に対して次が成り立つ。 \[ f(nm,x)=f(n,f(m,x)) \]

任意に$~m\in\mathbb{Z},x\in G~$をとる。
\begin{align} f(0\cdot m,x) &= f(0,x)\\ &= 0_G\\ &= f(0,f(m,x)) \end{align} が成り立つ。
また、任意に$~n\in\mathbb{Z}~$をとり、$f(nm,x)=f(n,f(m,x))~$が成り立つと仮定する。
このとき、 \begin{align} f((n+1)m,x) &= f(nm+m,x)\\ &= f(nm,x)+f(m,x)\\ &= f(n,f(m,x))+f(m,x)\\ &= f(n+1,f(m,x)) \end{align} \begin{align} f((n-1)m,x) &= f(nm-m,x)\\ &= f(nm,x)-f(m,x)\\ &= f(n,f(m,x))-f(m,x)\\ &= f(n-1,f(m,x)) \end{align} となるので、定理20(3)より \[ {}^{\forall}n\in\mathbb{Z},f(nm,x)=f(n,f(m,x)) \] が成り立つ。
$$\square$$


主張29.3
任意の$~n\in\mathbb{Z},x,y\in G~$に対して次が成り立つ。 \[ f(n,x+y)=f(n,x)+f(n,y) \]

任意に$~x,y\in G~$をとる。
\begin{align} f(0,x+y) &= 0_G\\ &= 0_G+0_G\\ &= f(0,x)+f(0,y) \end{align} が成り立つ。
また、任意に$~n\in\mathbb{Z}~$をとり、$f(n,x+y)=f(n,x)+f(n,y)~$が成り立つと仮定する。
このとき、 \begin{align} f(n+1,x+y) &= f(n,x+y)+(x+y)\\ &= f(n,x)+x+f(n,y)+y\\ &= f(n+1,x)+f(n+1,y) \end{align} \begin{align} f(n-1,x+y) &= f(n,x+y)-(x+y)\\ &= f(n,x)-x+f(n,y)-y\\ &= f(n-1,x)+f(n-1,y) \end{align} となるので、定理20(3)より \[ {}^{\forall}n\in\mathbb{Z},f(n,x+y)=f(n,x)+f(n,y) \] が成り立つ。
$$\square$$


したがって、$G~$は$~\mathbb{Z}~$からの作用$~f~$によって$~\mathbb{Z}$加群となる。
$$\square$$