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整数 (6)整数の性質


 $\mathbb{Z}~$上の加法$+$、乗法$~\cdot~,\times$、順序関係$\le$を \begin{align} &m+n=\psi(\psi^{-1}(m)~\dot{+}~\psi^{-1}(n))\\ &m\cdot n=\psi(\psi^{-1}(m)~\dot{\times}~\psi^{-1}(n))\\ &m\le n\Longleftrightarrow\psi^{-1}(m)~\dot{\le}~\psi^{-1}(n) \end{align} となるように定める。
これらは$~m,n\in\mathbb{N}~$のときは$~\mathbb{N}~$上の$+,\cdot~(\times),\le$と一致する。
また、$m+(-n)~$を$~m-n~$を省略して書くことで、$\mathbb{Z}~$上の減法$-$を定める。
自然数のときと同様に、加法・減法より乗法の演算を優先するようにして、乗法演算子は(わかりにくい場合を除いて)省略する。

 定義より、これまでに示してきた$~Z~$上の性質は$~\mathbb{Z}~$上でも成り立つことがわかる。
わかっている整数の性質の一部を以下に列挙する。
定理20(整数の性質)

$(1)~$ $\mathbb{Z}~$は$+,\cdot~$によって整域になる。

$(2)~$ 任意の$~a,b\in\mathbb{Z}~$について、次が成り立つ。 \begin{align} (\mathrm{a})&~-(-a)=a\\ (\mathrm{b})&~a=-b\Longleftrightarrow b=-a\\ (\mathrm{c})&~-0=0 \end{align}

$(3)~$ 任意の$~a\in\mathbb{Z}~$に対しての命題$~P(a)~$があり、次が成り立っているとする。

\begin{align} (\mathrm{a})&~P(a_0)~が正しい~a_0\in\mathbb{Z}~が存在する\\ (\mathrm{b})&~P(a)~が正しいなら~P(a+1),P(a-1)~も正しい \end{align}
このとき、すべての$~a\in\mathbb{Z}~$について$~P(a)~$は正しい。

$(4)~$ 任意の$~a,b,c\in\mathbb{Z}~$について、次が成り立つ。 \begin{align} (\mathrm{a})&~(-a)\cdot b=a\cdot(-b)=-(a\cdot b)\\ (\mathrm{b})&~(-a)\cdot(-b)=ab\\ (\mathrm{c})&~a(b-c)=ab-ac\\ (\mathrm{d})&~(a-b)c=ac-bc\\ (\mathrm{e})&~c\neq0~のとき~ac=bc\Longrightarrow a=b \end{align}

$(5)~$ $\le$は$~\mathbb{Z}~$上の全順序関係である。

$(6)~$ 任意の$~a,b,c\in\mathbb{Z}~$について、次が成り立つ。 \begin{align} (\mathrm{a})&~a\lt b~かつ~b\lt c\Longrightarrow a\lt c\\ (\mathrm{b})&~a\lt b\Longleftrightarrow a+c\lt b+c\\ (\mathrm{c})&~a\lt b\Longleftrightarrow-a\gt-b \end{align}

$(7)~$ 任意の$~a,b,c\in\mathbb{Z}~$について、次が成り立つ。 \begin{equation*} \begin{split} (\mathrm{a})&~c\gt0~ならば、& a\lt b\Longleftrightarrow ac\lt bc\\ (\mathrm{b})&~c\lt0~ならば、& a\lt b\Longleftrightarrow ac\gt bc\\ (\mathrm{c})&~b\gt0~ならば、& a\gt0\Longleftrightarrow ab\gt0\\ & & a\lt0\Longleftrightarrow ab\lt0\\ (\mathrm{d})&~b\lt0~ならば、& a\gt0\Longleftrightarrow ab\lt0\\ & & a\lt0\Longleftrightarrow ab\gt0 \end{split} \end{equation*}

$(8)~$ 任意の空でない部分集合$~S\subset Z~$について次が成り立つ。

\begin{align} (\mathrm{a})&~{}^{\exists}x\in \mathbb{Z}~\text{s.t.}~{}^{\forall}s\in S,x\lt s~となるとき、S~は最小元をもつ\\ (\mathrm{b})&~{}^{\exists}x\in \mathbb{Z}~\text{s.t.}~{}^{\forall}s\in S,s\lt x~となるとき、S~は最大元をもつ \end{align}


定理21
$0\lt a\lt1~$となる$~a\in\mathbb{Z}~$は存在しない。
また、より一般的に次が成り立つ。 \[ {}^{\forall}n\in\mathbb{Z},\lnot({}^{\exists}a\in\mathbb{Z},n\lt a\lt n+1) \]

$a\in\mathbb{Z}~$をとり$~0\lt a\lt1~$と仮定して矛盾を導く。
$S=\mathbb{Z}_{\gt}=\{n\in\mathbb{Z}\mid0\lt n\}~$とする。
仮定から$~a\in S~$である。
このとき、定理20(8)(a)から$~S~$は最小元$~s\in S~$をもつ。
$a\in S~$と$~s~$の最小性から$~0\lt s\lt a\lt 1~$である。
$s\gt0~$と$~0\lt s~$と定理20(7)(a)から$~0\lt ss~$となる。
よって、$ss\in S~$である。
また、$s\gt0~$と$~s\lt1~$と定理20(7)(a)から$~ss\lt s~$となる。
しかし、これは$~s~$の最小性に矛盾する。

また、$n\in\mathbb{Z}~$を任意にとる。
$n\lt a\lt n+1~$となる$~a\in\mathbb{Z}~$が存在すれば \[ 0\lt a-n\lt 1 \] となるので、矛盾する。
$$\square$$


補題22
$a,b,c,d\in\mathbb{Z}~$とする。
$0\lt a\le b~$かつ$~0\lt c\lt d~$なら$~ac\lt bd~$となる。
また、$b\le a\lt 0~$かつ$~d\lt c\lt 0~$なら$~ac\lt bd~$となる。

$a,b,c,d\in\mathbb{Z}~$を任意にとり、$0\lt a\le b,0\lt c\lt d~$とする。
$a=b~$のときは、定理20(7)(a)から$~ac\lt ad=bd~$である。
$a\lt b~$とする。
$a\lt b,0\lt c~$より$~ac\lt bc~$である。
また、$c\lt d,0\lt b~$より$~bc\lt bd~$である。
したがって、$ac\lt bd~$となる。

また、$b\le a\lt0,d\lt c\lt0~$とする。
このとき、$0\lt-a\le-b,0\lt-c\lt-d~$である。
したがって \[ ac = (-a)(-c) \lt (-b)(-d) = bd \] となる。
$$\square$$


定理23
$\mathbb{Z}~$の単元は$~1,-1~$のみである。

\[ 1\cdot1=1 \] \[ (-1)\cdot(-1)=1\cdot1=1 ~~~~~(\text{定理20(4)(b)より}) \] となるので$~1,-1~$は単元である。
$a\in\mathbb{Z}\setminus\{0\}~$を単元とする。
このとき、$aa'=1~$となる$~a'\in\mathbb{Z}~$がとれる。

<$0\lt a~$のとき>
定理21より$~1\le a~$である。
$a'\le0~$とすると、定理20(7)(b)より$~aa'\le0~$である。
しかし、これは$~aa'=1\gt0~$に矛盾する。
よって、$a'\gt0~$である。
また、$a'\gt1~$とすると、補題22より$~aa'\gt1~$となる。
これは$~aa'=1~$に矛盾するので$~a'\le1~$である。
$0\lt a'\le1~$と定理21より$~a'=1~$である。
したがって、$a=a\cdot1=aa'=1~$となる。

<$a\lt0~$のとき>
定理21より$~a\le-1~$である。
$a'\ge0~$とすると、定理20(7)(b)より$~aa'\le0~$である。
しかし、これは$~aa'=1\gt0~$に矛盾する。
よって、$a'\lt0~$である。
また、$a'\lt-1~$とすると、補題22より$~aa'\gt1~$となる。
これは$~aa'=1~$に矛盾するので$~a'\ge1~$である。
$-1\le a'\lt0~$と定理21より$~a'=-1~$である。
したがって、$a=a\cdot1=a(-a')=-1~$となる。

$$\square$$