体論 (7)正規拡大
$L/K~$を体の拡大とする。
任意の$~K$上代数的な元$~x\in L~$に対して、$x~$の$~K$上の最小多項式が$~L[X]~$において1次の積に分解できるとき、$L/K~$は正規拡大であるという。
定理30
$L/K~$を体の正規代数的拡大とする。このとき、$\mathrm{Aut}(L/K)=\mathop{\mathrm{Hom}^{\mathrm{al}}_{K}}\nolimits(L,L)~$となる。
$\mathrm{Aut}(L/K)\subset\mathop{\mathrm{Hom}^{\mathrm{al}}_{K}}\nolimits(L,L)~$は明らかである。
$\varphi\in\mathop{\mathrm{Hom}^{\mathrm{al}}_{K}}\nolimits(L,L)~$を任意にとる。
体からの環準同型は単射なので$~\varphi~$は単射である。
$\alpha\in L~$を任意にとり、$f(X)\in K[X]~$を$~\alpha~$の最小多項式とする。
このとき、$L/K~$は正規拡大なので \[ f(X) = (X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる$~\alpha_1,\dots,\alpha_n\in L~$がとれる。
特に、$\alpha\in\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}~$である。
このとき、補題24より各$~\varphi(\alpha_i)~(i=1,\dots,n)~$は$~f(X)~$の根となる。
よって、$\phi(\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\})\subset\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}~$となる。
$\varphi~$は単射なので$~\phi(\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\})=\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}~$である。
これと$~\alpha\in\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}~$より \[ \varphi(\alpha_i) = \alpha \] となる$~i\in\{1,\dots,n\}~$がとれる。
よって、$\varphi~$は全射である。 $$\square$$
$\varphi\in\mathop{\mathrm{Hom}^{\mathrm{al}}_{K}}\nolimits(L,L)~$を任意にとる。
体からの環準同型は単射なので$~\varphi~$は単射である。
$\alpha\in L~$を任意にとり、$f(X)\in K[X]~$を$~\alpha~$の最小多項式とする。
このとき、$L/K~$は正規拡大なので \[ f(X) = (X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる$~\alpha_1,\dots,\alpha_n\in L~$がとれる。
特に、$\alpha\in\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}~$である。
このとき、補題24より各$~\varphi(\alpha_i)~(i=1,\dots,n)~$は$~f(X)~$の根となる。
よって、$\phi(\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\})\subset\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}~$となる。
$\varphi~$は単射なので$~\phi(\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\})=\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}~$である。
これと$~\alpha\in\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}~$より \[ \varphi(\alpha_i) = \alpha \] となる$~i\in\{1,\dots,n\}~$がとれる。
よって、$\varphi~$は全射である。 $$\square$$
$K~$を体とする。
定数でない任意の1変数多項式$~f(X)\in K[X]\setminus K~$に対して、$f(X)~$の根$~\alpha\in K~$が存在するとき、$K~$は代数閉体であるという。
命題31
$K~$を代数閉体、$f(X)\in K[X]\setminus K~$とする。このとき、 \[ f(X) = a(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる$~a,\alpha_1,\dots,\alpha_n\in K~$が存在する。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)~$に関する数学的帰納法で示す。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=1~$なら明らかである。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$とする。
このとき、$K~$は代数閉体なので$~f(X)~$の根$~\alpha\in K~$がとれる。
よって、$\alpha\in K~$が$~f(X)~$の根なので \[ f(X) = g(X)(X-\alpha) \] となる$~g(X)\in K[X]~$がある。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)\lt n-1~$なので帰納法の仮定より \[ g(X) = a(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_r) \] となる$~a,\alpha_1,\dots,\alpha_r\in K~$が存在する。
したがって、 \[ f(X) = a(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_r)(X-\alpha) \] となる。 $$\square$$
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=1~$なら明らかである。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$とする。
このとき、$K~$は代数閉体なので$~f(X)~$の根$~\alpha\in K~$がとれる。
よって、$\alpha\in K~$が$~f(X)~$の根なので \[ f(X) = g(X)(X-\alpha) \] となる$~g(X)\in K[X]~$がある。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)\lt n-1~$なので帰納法の仮定より \[ g(X) = a(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_r) \] となる$~a,\alpha_1,\dots,\alpha_r\in K~$が存在する。
したがって、 \[ f(X) = a(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_r)(X-\alpha) \] となる。 $$\square$$
逆に、$f(X)~$の根は(どれだけ$~K~$を拡大しようと)$~\alpha_1,\dots,\alpha_n~$しかない。
命題32
$L/K~$を体の拡大、$L~$は代数閉体とする。このとき、$L/K~$は正規拡大である。
任意に$~K$上代数的な元$~x\in L~$をとり、$f(X)\in K[X]~$を$~x~$の最小多項式とする。
このとき、$f(X)~$は定数ではなく、$L~$が代数閉体なので \[ f(X) = (X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる$~\alpha_1,\dots,\alpha_n\in L~$がとれる。
したがって、$L/K~$は正規拡大である。
$$\square$$
このとき、$f(X)~$は定数ではなく、$L~$が代数閉体なので \[ f(X) = (X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる$~\alpha_1,\dots,\alpha_n\in L~$がとれる。
したがって、$L/K~$は正規拡大である。
命題33
$K~$を代数閉体、$L/K~$を体の拡大とする。$L/K~$が代数的拡大なら$~L=K~$である。
任意に$~x\in L~$をとる。
$L/K~$は代数的拡大なので、$x~$は$~K$上代数的である。
ここで、$x~$の$~K$上最小多項式を$~f(X)~$とする。
このとき、明らかに$~f(X)\notin K~$なので、命題31より \[ f(X) = (X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる$~\alpha_1,\dots,\alpha_n\in K~$が存在する。
$f(x)=0~$なので、$x=\alpha_i\in K~$となる$~i\in\{1,\dots,n\}~$が存在する。 $$\square$$
$L/K~$は代数的拡大なので、$x~$は$~K$上代数的である。
ここで、$x~$の$~K$上最小多項式を$~f(X)~$とする。
このとき、明らかに$~f(X)\notin K~$なので、命題31より \[ f(X) = (X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる$~\alpha_1,\dots,\alpha_n\in K~$が存在する。
$f(x)=0~$なので、$x=\alpha_i\in K~$となる$~i\in\{1,\dots,n\}~$が存在する。 $$\square$$
$L/K~$を体の拡大、$f(X)\in K[X]\setminus K~$とする。
このとき、$f(X)~$が$~L[X]~$において1次多項式の積に分解できる、つまり \[ f(X) = f_1(X)\cdots f_n(X) \] となる1次多項式$~f_1(X),\dots,f_n(X)\in L[X]~$が存在するとき、$L~$は$~f(X)~$の($K$上の)分解体であるという。
また、$f(X)~$の$~K$上の分解体のうち(包含関係において)極小なものを$~f(X)~$の($K$上の)最小分解体という。
特に、上の分解は1次の係数を括りだすことで \[ f(X) = a(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] という形にできる($\alpha_1,\dots,\alpha_n\in K$)。
命題30より、代数閉体$~K~$は$~K$上の(係数でない)多項式すべての分解体になっている。
命題34
$K~$を体、$f(X)\in K[X]\setminus K~$とする。このとき、$f(X)~$の分解体が存在する。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)~$に関する数学的帰納法で示す。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=1~$のときは、明らかに$~K~$自身が$~f(X)~$の分解体である。
$n\in\mathbb{Z}_{\gt}~$を任意にとり、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$とする。
$K[X]~$は一意分解整域なので、$q(X)\mid f(X)~$となる既約多項式$~q(X)~$がとれる。
命題16より、$L=K[X]/(q(X))~$は体である。
(また、これは$~K~$の拡大体とみなされる。)
命題17より、$q(X)~$の根$~\alpha\in L~$が存在する。
$q(X)\mid f(X)~$より$~\alpha~$は$~f(X)~$の根でもある。
よって、$f(X)=g(X)(X-\alpha)~$となる$~g(X)\in L[X]~$がある。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)\le n-1~$となるので、帰納法の仮定より$~g(X)~$の$~L$上の分解体$~L'~$がある。
よって、$g(X)=g_1(X)\cdots g_r(X)~$となる1次多項式$~g_1(X),\dots,g_r(X)\in L'~$がとれる。
また、$X-\alpha\in L'~$なので \[ f(X) = g_1(X)\cdots g_r(X)(X-\alpha) \] は$~L'[X]~$における1次多項式の積である。
したがって、$L'~$は$~f(X)~$の分解体である。
$$\square$$
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=1~$のときは、明らかに$~K~$自身が$~f(X)~$の分解体である。
$n\in\mathbb{Z}_{\gt}~$を任意にとり、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$とする。
$K[X]~$は一意分解整域なので、$q(X)\mid f(X)~$となる既約多項式$~q(X)~$がとれる。
命題16より、$L=K[X]/(q(X))~$は体である。
(また、これは$~K~$の拡大体とみなされる。)
命題17より、$q(X)~$の根$~\alpha\in L~$が存在する。
$q(X)\mid f(X)~$より$~\alpha~$は$~f(X)~$の根でもある。
よって、$f(X)=g(X)(X-\alpha)~$となる$~g(X)\in L[X]~$がある。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)\le n-1~$となるので、帰納法の仮定より$~g(X)~$の$~L$上の分解体$~L'~$がある。
よって、$g(X)=g_1(X)\cdots g_r(X)~$となる1次多項式$~g_1(X),\dots,g_r(X)\in L'~$がとれる。
また、$X-\alpha\in L'~$なので \[ f(X) = g_1(X)\cdots g_r(X)(X-\alpha) \] は$~L'[X]~$における1次多項式の積である。
したがって、$L'~$は$~f(X)~$の分解体である。
命題35
$L/K~$を体の拡大、$L~$を代数閉体、$f(X)\in K[X]~$とする。このとき、$L$上で \[ f(X) = a(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] と分解でき、$K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)~$は$~f(X)~$の最小分解体となる。
$M\subset K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)~$を$~f(X)~$の分解体とする。
\[ f(X) = b(X-\beta_1)\cdots(X-\beta_m) \] となる$~b,\beta_1,\dots,\beta_m\in M~$がある。
このとき、$\beta_1,\dots,\beta_m\in L~$でもあるので、これは$~f(X)~$の根すべてである。
よって、$\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}=\{\beta_1,\dots,\beta_m\}\subset M~$となる。
したがって、$K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)\subset M~$である。 $$\square$$
\[ f(X) = b(X-\beta_1)\cdots(X-\beta_m) \] となる$~b,\beta_1,\dots,\beta_m\in M~$がある。
このとき、$\beta_1,\dots,\beta_m\in L~$でもあるので、これは$~f(X)~$の根すべてである。
よって、$\{\alpha_1,\dots,\alpha_n\}=\{\beta_1,\dots,\beta_m\}\subset M~$となる。
したがって、$K(\alpha_1,\dots,\alpha_n)\subset M~$である。 $$\square$$