体論 (4)最小多項式
命題13
$L/K~$を体の拡大、$\alpha\in L~$は$~K$上代数的とする。このとき、$\alpha~$を根にもつモニック多項式$~f(X)\in K[X]~$のうち、次数が最小のものが一意的に定まる。
$\alpha~$は$~K$上代数的なので
\[
F = \{f(X)\in K[X] \mid f(X)\neq0,f(\alpha)=0\}
\]
は空集合ではない。
$\{\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)\mid f(X)\in F\}~$は空でない$~\mathbb{N}~$の部分集合である。
よって、最小値$~n=\min\{\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)\mid f(X)\in F\}~$がとれる。
$F'=\{f(X)\in F \mid \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n\}~$は空でない。
$~f(X),g(X)\in F'~$を任意にとる。
$f(X)\neq0~$なので、多項式環.系4より \[ g(X)=q(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] を満たす$~q(X),r(X)\in K[X]~$がある。
このとき、$r(\alpha)=g(\alpha)-q(\alpha)f(\alpha)=0~$なので、$r(X)~$も$~\alpha~$を根にもつ。
$n=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)~$の最小性から$~r(X)=0~$でないといけない。
よって、$g(X)=q(X)f(X)~$である。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits q(X)\ge1~$なら$~\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(q(X)f(X))\gt n~$となるが、これは$~g(X)~$の取り方に矛盾する。
よって、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits q(X)\le0~$すなわち$~q(X)\in K~$となる。
したがって、$F'~$の元は定数倍を除いて一意的である。
$F'\neq\emptyset~$より$~f(X)\in F'~$がとれる。
$f(X)~$の最高($n$)次の係数を$~a\in K~$とする。
$a\neq0~$なので、乗法逆元$~a^{-1}\in K~$がある。
$a^{-1}f(X)\in F'~$で、これがモニックであることは明らかである。
また、$g(X)\in F'~$をモニック多項式とすると \[ g(X) = ba^{-1}f(X) \] となる$~b\in K~$が存在する。
$ba^{-1}f(X)~$の最高($n$)次の係数は$~b~$である。
$g(X)~$はモニックなので$~b=1~$となる。
つまり、$g(X)=a^{-1}f(X)~$である。
$$\square$$
$\{\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)\mid f(X)\in F\}~$は空でない$~\mathbb{N}~$の部分集合である。
よって、最小値$~n=\min\{\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)\mid f(X)\in F\}~$がとれる。
$F'=\{f(X)\in F \mid \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n\}~$は空でない。
$~f(X),g(X)\in F'~$を任意にとる。
$f(X)\neq0~$なので、多項式環.系4より \[ g(X)=q(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] を満たす$~q(X),r(X)\in K[X]~$がある。
このとき、$r(\alpha)=g(\alpha)-q(\alpha)f(\alpha)=0~$なので、$r(X)~$も$~\alpha~$を根にもつ。
$n=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)~$の最小性から$~r(X)=0~$でないといけない。
よって、$g(X)=q(X)f(X)~$である。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits q(X)\ge1~$なら$~\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(q(X)f(X))\gt n~$となるが、これは$~g(X)~$の取り方に矛盾する。
よって、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits q(X)\le0~$すなわち$~q(X)\in K~$となる。
したがって、$F'~$の元は定数倍を除いて一意的である。
$F'\neq\emptyset~$より$~f(X)\in F'~$がとれる。
$f(X)~$の最高($n$)次の係数を$~a\in K~$とする。
$a\neq0~$なので、乗法逆元$~a^{-1}\in K~$がある。
$a^{-1}f(X)\in F'~$で、これがモニックであることは明らかである。
また、$g(X)\in F'~$をモニック多項式とすると \[ g(X) = ba^{-1}f(X) \] となる$~b\in K~$が存在する。
$ba^{-1}f(X)~$の最高($n$)次の係数は$~b~$である。
$g(X)~$はモニックなので$~b=1~$となる。
つまり、$g(X)=a^{-1}f(X)~$である。
(モニックに限らず次数が最小のものを最小多項式という場合もある。)
命題14
$L/K~$を体の拡大、$\alpha\in L~$は$~K$上代数的、$f(X)\in K[X]~$を$~\alpha~$の最小多項式とする。このとき、任意の$~g(X)\in K[X]~$に対して$~g(\alpha)=0~$なら$~f(X)\mid g(X)~$である。
$g(X)\in K[X]~$を任意にとり$~g(\alpha)=0~$とする。
$f(X)\neq0~$なので \[ g(X) = q(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] を満たす$~q(X),r(X)\in K[X]~$が存在する。
$r(\alpha)=0~$なので、$f(X)~$の最小性から$~r(X)=0~$である。
よって、$f(X)\mid g(X)~$となる。
$$\square$$
$f(X)\neq0~$なので \[ g(X) = q(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] を満たす$~q(X),r(X)\in K[X]~$が存在する。
$r(\alpha)=0~$なので、$f(X)~$の最小性から$~r(X)=0~$である。
よって、$f(X)\mid g(X)~$となる。
命題15
$L/K~$を体の拡大、$\alpha\in L~$は$~K$上代数的とする。$f(X)\in K[X]~$が$~\alpha~$の最小多項式であることと、$f(X)~$が既約なモニック多項式で$~\alpha~$を根にもつことは同値である。
$f(X)\in K[X]~$が$~\alpha~$の最小多項式であるとする。
任意の$~g(X),h(X)\in K[X]~$をとり、$f(X)=g(X)h(X)~$とする。
$g(\alpha)h(\alpha)=f(\alpha)=0~$なので、$g(\alpha)=0~$または$~h(\alpha)=0~$となる。
$g(\alpha)=0~$としても一般性を失わない。
$h(X)\notin K[X]^{\times}=K^{\times}~$と仮定して矛盾を導く。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)+\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits h(X)~$と仮定より、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)\lt n~$である。
しかし、これは$~f(X)~$の最小性に矛盾する。
よって、$h(X)\in K[X]^{\times}~$である。
したがって、$f(X)~$は既約多項式である。
$f(X)~$が既約なモニック多項式で$~\alpha~$を根にもつとする。
$\alpha~$の最小多項式を$~g(X)~$とする。
$f(\alpha)=0~$なので、命題14より$~f(X)=q(X)g(X)~$となる$~q(X)\in K[X]~$がある。
$f(X)~$は既約なので$~q(X)\in K[X]^{\times}~$または$~g(X)\in K[X]^{\times}~$である。
$g(X)\in K[X]^{\times}~$とはならないので$~q(X)\in K^{\times}=K^{\times}~$となる。
つまり、$f(X)~$は$~g(X)~$の定数倍である。
$f(X),g(X)~$はどちらもモニックなので$~f(X)=g(X)~$となる。
$$\square$$
任意の$~g(X),h(X)\in K[X]~$をとり、$f(X)=g(X)h(X)~$とする。
$g(\alpha)h(\alpha)=f(\alpha)=0~$なので、$g(\alpha)=0~$または$~h(\alpha)=0~$となる。
$g(\alpha)=0~$としても一般性を失わない。
$h(X)\notin K[X]^{\times}=K^{\times}~$と仮定して矛盾を導く。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)+\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits h(X)~$と仮定より、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)\lt n~$である。
しかし、これは$~f(X)~$の最小性に矛盾する。
よって、$h(X)\in K[X]^{\times}~$である。
したがって、$f(X)~$は既約多項式である。
$f(X)~$が既約なモニック多項式で$~\alpha~$を根にもつとする。
$\alpha~$の最小多項式を$~g(X)~$とする。
$f(\alpha)=0~$なので、命題14より$~f(X)=q(X)g(X)~$となる$~q(X)\in K[X]~$がある。
$f(X)~$は既約なので$~q(X)\in K[X]^{\times}~$または$~g(X)\in K[X]^{\times}~$である。
$g(X)\in K[X]^{\times}~$とはならないので$~q(X)\in K^{\times}=K^{\times}~$となる。
つまり、$f(X)~$は$~g(X)~$の定数倍である。
$f(X),g(X)~$はどちらもモニックなので$~f(X)=g(X)~$となる。