体論 (5)根の添加
$A~$を可換環、$\#\boldsymbol{X}=n~$とする。
$A[\boldsymbol{X}]~$における既約元を$~A$上の($n$変数)既約多項式という。
命題16
$K~$を体、$f(X)\in K[X]~$を既約多項式とすると、$K[X]/(f(X))~$は体である。また、包含写像$~K\to K[X]~$と自然な準同型$~K[X]\to K[X]/(f(X))~$の合成写像$~\varphi:K\to K[X]/(f(X))~$は単射準同型であり、 \[ [K[X]/(f(X)):\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\varphi]=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] となる。
多項式環.系4より$~K[X]~$はEuclid整域である。
よって、$K[X]~$は単項イデアル整域や一意分解整域となる。
したがって、既約元$~f(X)~$は素元でもある。
$(f(X))~$は素イデアルであり、$K[X]~$は単項イデアル整域なので$~(f(X))~$は極大イデアルとなる。
よって、$K[X]/(f(X))~$は体である。
包含写像$~K\to K[X]~$は準同型なので$~\varphi~$も準同型である。
任意に$~a,b\in K~$をとり、$\varphi(a)=\varphi(b)~$とする。
$\overline{a-b}=\overline{a}-\overline{b}=0~$であるので、$a-b\in(f(X))~$である。
($g(X)\in K[X]~$の剰余類を$~\overline{g(X)}~$と書く。)
よって、 \[ a-b = g(X)f(X) \] となる$~g(X)\in K[X]~$がある。
$g(X)\neq0~$なら \[ 0=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(a-b)=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(g(X)f(X))\ge\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] より$~f(X)\in K~$となるが、これは$~f(X)~$が既約元であることに矛盾する。
したがって、$g(X)=0~$であり、$a-b=g(X)f(X)=0~$となる。
$a=b~$となるので、$\varphi~$は単射である。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$とする。
$\varphi~$は単射なので、$K\simeq\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\varphi~$である。
また、多項式環.命題10より$~\{\overline{1},\dots,\overline{X^{n-1}}\}~$は$~K[X]/(f(X))~$の$~K$上の基底である。
$K\simeq\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\varphi~$より$~\{\overline{1},\dots,\overline{X^{n-1}}\}~$は$~K[X]/(f(X))~$の$~\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\varphi$上の基底でもある。
したがって、$[K[X]/(f(X)):\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\varphi]=n~$となる。
$$\square$$
よって、$K[X]~$は単項イデアル整域や一意分解整域となる。
したがって、既約元$~f(X)~$は素元でもある。
$(f(X))~$は素イデアルであり、$K[X]~$は単項イデアル整域なので$~(f(X))~$は極大イデアルとなる。
よって、$K[X]/(f(X))~$は体である。
包含写像$~K\to K[X]~$は準同型なので$~\varphi~$も準同型である。
任意に$~a,b\in K~$をとり、$\varphi(a)=\varphi(b)~$とする。
$\overline{a-b}=\overline{a}-\overline{b}=0~$であるので、$a-b\in(f(X))~$である。
($g(X)\in K[X]~$の剰余類を$~\overline{g(X)}~$と書く。)
よって、 \[ a-b = g(X)f(X) \] となる$~g(X)\in K[X]~$がある。
$g(X)\neq0~$なら \[ 0=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(a-b)=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(g(X)f(X))\ge\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] より$~f(X)\in K~$となるが、これは$~f(X)~$が既約元であることに矛盾する。
したがって、$g(X)=0~$であり、$a-b=g(X)f(X)=0~$となる。
$a=b~$となるので、$\varphi~$は単射である。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$とする。
$\varphi~$は単射なので、$K\simeq\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\varphi~$である。
また、多項式環.命題10より$~\{\overline{1},\dots,\overline{X^{n-1}}\}~$は$~K[X]/(f(X))~$の$~K$上の基底である。
$K\simeq\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\varphi~$より$~\{\overline{1},\dots,\overline{X^{n-1}}\}~$は$~K[X]/(f(X))~$の$~\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\varphi$上の基底でもある。
したがって、$[K[X]/(f(X)):\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\varphi]=n~$となる。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$とすれば、$K[X]/(f(X))~$は$~K~$の$~n$次拡大体である。
命題17
$K~$を体、$f(X)\in K[X]~$を既約多項式とする。このとき、$f(X)~$は$~K[X]/(f(X))~$に根をもつ。
$f(X)\in K[X]~$なので
\[
f(X) = a_0+\cdots+a_nX^n
\]
となる$~a_0,\dots,a_n\in K~$がある。
\begin{align} f(\overline{X}) &= a_0+\cdots+a_n\overline{X}^n\\ &= \overline{a_0}+\cdots+\overline{a_n}\overline{X^n}\\ &= \overline{a_0+\cdots+a_nX^n}\\ &= \overline{f(X)}\\ &=0 \end{align} となるので、$\overline{X}\in K[X]/(f(X))~$は$~f(X)~$の根である。
$$\square$$
\begin{align} f(\overline{X}) &= a_0+\cdots+a_n\overline{X}^n\\ &= \overline{a_0}+\cdots+\overline{a_n}\overline{X^n}\\ &= \overline{a_0+\cdots+a_nX^n}\\ &= \overline{f(X)}\\ &=0 \end{align} となるので、$\overline{X}\in K[X]/(f(X))~$は$~f(X)~$の根である。
$L/K~$を体の拡大、$\#\boldsymbol{X}=n$、$\boldsymbol{\alpha}\in L^n~$とする。
このとき、$K[\boldsymbol{X}]~$の元に$~\boldsymbol{\alpha}~$を代入する写像を$~\mathrm{sub}_{\boldsymbol{\alpha}}~$とする。 \[ \mathrm{sub}_{\boldsymbol{\alpha}} : K[\boldsymbol{X}]\to K[\boldsymbol{\alpha}] ~;~ f(\boldsymbol{X})\mapsto f(\boldsymbol{\alpha}) \] これは明らかに全射準同型である。
補題18
$L/K~$を体の拡大、$\alpha\in L~$は$~K$上代数的、$f(X)\in K[X]~$を$~\alpha~$の最小多項式とする。このとき、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\mathrm{sub}_\alpha=(f(X))~$となる。
$f(\alpha)=0~$なので、$(f(X))\subset\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\mathrm{sub}_\alpha~$は明らか。
また、命題14より$~\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\mathrm{sub}_\alpha\subset(f(X))~$もわかる。
$$\square$$
また、命題14より$~\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\mathrm{sub}_\alpha\subset(f(X))~$もわかる。
命題19
$L/K~$を体の拡大、$f(X)\in K[X]~$を既約なモニック多項式とする。このとき、$f(X)~$の任意の根$~\beta\in L~$に対して \[ \varphi(\overline{X})=\beta \] となる同型$~\varphi:K[X]/(f(X))\to K[\beta]~$が存在する。
$f(X)~$は既約なモニック多項式である。
命題15と$~f(\beta)=0~$より、$f(X)~$は$~\beta~$の最小多項式となる。
補題18と第一同型定理より \[ K[X]/(f(X)) \simeq K[\beta] \] が得られる。
実際この同型写像$~\varphi:K[X]/(f(X))\to K[\beta]~$は任意の$~\overline{g(X)}\in K[X]/(f(X))~$に対して \[ \varphi(\overline{g(X)}) = g(\beta) \] となるように与えられる。
特に、$\varphi(\overline{X})=\beta~$である。
$$\square$$
命題15と$~f(\beta)=0~$より、$f(X)~$は$~\beta~$の最小多項式となる。
補題18と第一同型定理より \[ K[X]/(f(X)) \simeq K[\beta] \] が得られる。
実際この同型写像$~\varphi:K[X]/(f(X))\to K[\beta]~$は任意の$~\overline{g(X)}\in K[X]/(f(X))~$に対して \[ \varphi(\overline{g(X)}) = g(\beta) \] となるように与えられる。
特に、$\varphi(\overline{X})=\beta~$である。
系20
$L/K~$を体の拡大、$\alpha\in L~$とする。このとき、$\alpha~$が$~K$上代数的であることと、$K(\alpha)=K[\alpha]~$となることは同値である。
$\alpha~$は$~K$上代数的とし、$f(X)\in K[X]~$を$~\alpha~$の最小多項式とする。
$\alpha~$は$~f(X)~$の根なので、命題19より \[ K[X]/(f(X)) \simeq K[\alpha] \] となる。
また、命題16より$~K[X]/(f(X))~$は体なので$~K[\alpha]~$は体となる。
よって、$K[\alpha]~$は$~K~$と$~\alpha~$を含む体なので$~K(\alpha)\subset K[\alpha]~$である。
逆の包含関係は明らかである。
$\alpha=0~$なら明らかなので$~\alpha\neq0~$とする。
$\alpha\in K(\alpha)\setminus\{0\}~$なので乗法逆元$~\alpha^{-1}\in K(\alpha)~$がとれる。
$\alpha^{-1}\in K(\alpha)=K[\alpha]~$より、$f(\alpha)=\alpha^{-1}~$となる$~f(X)\in K[X]~$がある。
具体的に \[ f(X) = a_0+\cdots+a_nX^n ~~~~~(a_0,\dots,a_n\in K) \] と表されているとする。
このとき、$\alpha^{-1}=a_0+\cdots+a_n\alpha^n~$なので$~1=a_0\alpha+\cdots+a_n\alpha^{n+1}~$となる。
したがって、$K$上の多項式 \[ -1+a_0X+\cdots+a_nX^{n+1} \] は$~\alpha~$を根にもつ$~0~$でない多項式である。
よって、$\alpha~$は$~K$上代数的となる。
$$\square$$
$\alpha~$は$~f(X)~$の根なので、命題19より \[ K[X]/(f(X)) \simeq K[\alpha] \] となる。
また、命題16より$~K[X]/(f(X))~$は体なので$~K[\alpha]~$は体となる。
よって、$K[\alpha]~$は$~K~$と$~\alpha~$を含む体なので$~K(\alpha)\subset K[\alpha]~$である。
逆の包含関係は明らかである。
$\alpha=0~$なら明らかなので$~\alpha\neq0~$とする。
$\alpha\in K(\alpha)\setminus\{0\}~$なので乗法逆元$~\alpha^{-1}\in K(\alpha)~$がとれる。
$\alpha^{-1}\in K(\alpha)=K[\alpha]~$より、$f(\alpha)=\alpha^{-1}~$となる$~f(X)\in K[X]~$がある。
具体的に \[ f(X) = a_0+\cdots+a_nX^n ~~~~~(a_0,\dots,a_n\in K) \] と表されているとする。
このとき、$\alpha^{-1}=a_0+\cdots+a_n\alpha^n~$なので$~1=a_0\alpha+\cdots+a_n\alpha^{n+1}~$となる。
したがって、$K$上の多項式 \[ -1+a_0X+\cdots+a_nX^{n+1} \] は$~\alpha~$を根にもつ$~0~$でない多項式である。
よって、$\alpha~$は$~K$上代数的となる。
系21
$L/K~$を体の拡大、$f(X)\in K[X]~$を既約多項式とする。$\alpha\in L~$を$~f(X)~$の根とすれば、次が成り立つ。 \[ K(\alpha) = K[\alpha] \simeq K[X]/(f(X)) \] また、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$とすれば、$\{1,\alpha,\dots,\alpha^{n-1}\}~$は$~K(\alpha)~$の$~K$上の基底であり、$[K(\alpha):K]=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$となる。
$\alpha~$は$~K$上代数的なので$~K(\alpha)=K[\alpha]~$である。
また、$f(X)~$の最高次の係数を$~a\in K~$とすれば、$a^{-1}f(X)~$は$~\alpha~$の最小多項式である。
よって、 \[ K[\alpha] \simeq K[X]/(a^{-1}f(X)) = K[X]/(f(X)) \] となる。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$なら、$K[X]/(f(X))~$は \[ \{1,\dots,\overline{X}^{n-1}\} \] を基底とする$~K~$の$~n$次拡大体である。
命題19より同型$~K[X]/(f(X))\to K[\alpha]~$は$~\overline{X}\mapsto \alpha~$となるようにとれるので \[ \{1,\dots,\alpha^{n-1}\} \] は$~K[\alpha]~$の$~K$上の基底となる。
よって、$[K(\alpha):K]=n~$である。
$$\square$$
また、$f(X)~$の最高次の係数を$~a\in K~$とすれば、$a^{-1}f(X)~$は$~\alpha~$の最小多項式である。
よって、 \[ K[\alpha] \simeq K[X]/(a^{-1}f(X)) = K[X]/(f(X)) \] となる。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$なら、$K[X]/(f(X))~$は \[ \{1,\dots,\overline{X}^{n-1}\} \] を基底とする$~K~$の$~n$次拡大体である。
命題19より同型$~K[X]/(f(X))\to K[\alpha]~$は$~\overline{X}\mapsto \alpha~$となるようにとれるので \[ \{1,\dots,\alpha^{n-1}\} \] は$~K[\alpha]~$の$~K$上の基底となる。
よって、$[K(\alpha):K]=n~$である。
しかし、そのような拡大体$~L~$が与えられていなくても、命題17から$~K[X]/(f(X))~$は$~f(X)~$の根をもつような拡大体となる。
さらに、系21によりこれは$~f(X)~$の根を(1つ)添加したものと同型になる。