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有理数 (8)有理数体


定理20
$K~$を体、$f:\mathbb{Z}\to K~$を単射環準同型とする。
このとき、$f=\hat{f}\circ\iota~$となる体準同型$~\hat{f}:\mathbb{Q}\to K~$がただ1つ存在する。
ただし、$\iota:\mathbb{Z}\to\mathbb{Q}~$は包含写像である。
また、この$~\hat{f}~$は単射である。

$f~$は単射なので$~\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits f=\{0\}~$である。
よって、すべての$~a\in\mathbb{Z}^*~$に対して$~f(a)\neq0_K~$となる。
$K~$は体なので、$f(a)~$の乗法逆元$~f(a)^{-1}~$が存在する。
ここで、$n\in\mathbb{Z},a\in\mathbb{Z}^*~$に対して \[ \hat{f}\left(\frac{n}{a}\right) = f(n)f(a)^{-1} \] となるように定める。
$n,n'\in\mathbb{Z},a,a'\in\mathbb{Z}^*~$に対して、$\dfrac{n}{a}=\dfrac{n'}{a'}~$とする。
このとき、$na'=n'a~$なので \[ f(n)f(a')=f(na')=f(n'a)=f(n')f(a) \] となり、$f(n)f(a)^{-1}=f(n')f(a')^{-1}~$である。
つまり、$\hat{f}~$の定義はwell-defnedである。

$f(1)=1_K~$なので、任意の$~n\in\mathbb{Z}~$に対して \[ f(n) = f(n)1_K = f(n)f(1)^{-1} = \hat{f}\left(\frac{n}{1}\right) = \hat{f}(\iota(n)) \] となる。

$1\in\mathbb{Q}~$は$~a\in\mathbb{Z}^*~$を用いて$~1=\dfrac{a}{a}~$とできるので \[ \hat{f}(1) = \hat{f}\left(\frac{a}{a}\right) = f(a)f(a)^{-1} = 1_K \] となる。
任意に$~n,m\in\mathbb{Z},a,b\in\mathbb{Z}^*~$をとる。 \begin{align} \hat{f}\left(\frac{n}{a}+\frac{m}{b}\right) &= \hat{f}\left(\frac{nb+ma}{ab}\right)\\ &= f(nb+ma)f(ab)^{-1}\\ &= (f(n)f(b)+f(m)f(a))f(a)^{-1}f(b)^{-1}\\ &= f(n)f(a)^{-1}+f(m)f(b)^{-1}\\ &= \hat{f}\left(\frac{n}{a}\right)+\hat{f}\left(\frac{m}{b}\right) \end{align} \begin{align} \hat{f}\left(\frac{n}{a}\cdot\frac{m}{b}\right) &= \hat{f}\left(\frac{nm}{ab}\right)\\ &= f(nm)f(ab)^{-1}\\ &= f(n)f(m)f(a)^{-1}f(b)^{-1}\\ &= f(n)f(a)^{-1}f(m)f(b)^{-1}\\ &= \hat{f}\left(\frac{n}{a}\right)\hat{f}\left(\frac{m}{b}\right) \end{align} となるので、$\hat{f}~$は体準同型である。

また、体準同型$~g:\mathbb{Q}\to K~$が$~f=g\circ\iota~$を満たしているとすると \begin{align} f(n) &= g\left(\frac{n}{1}\right)\\ &= g\left(\frac{n}{a}\cdot\frac{a}{1}\right)\\ &= g\left(\frac{n}{a}\right)g\left(\frac{a}{1}\right)\\ &= g\left(\frac{n}{a}\right)f(a) \end{align} となるので$~g\left(\dfrac{n}{a}\right)=f(n)f(a)^{-1}=\hat{f}\left(\dfrac{n}{a}\right)~$となる。

$a\in\mathbb{Z}^*~$に対して$~f(a)\neq0~$なので、 \begin{align} \hat{f}\left(\frac{n}{a}\right)=0_K ~&\Longleftrightarrow~ f(n)f(a)^{-1}=0_K\\ &\Longleftrightarrow~ f(n)=0_K\\ &\Longleftrightarrow~ n=0 \end{align} となるので、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\hat{f}=\{0\}~$である。
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定理21
$K~$を体、$S\subset K~$を部分環とする。
$S\simeq\mathbb{Z}~$のとき、$S\subset L\simeq\mathbb{Q}~$となる部分体$~L\subset K~$がただ1つ存在する。

$S\simeq\mathbb{Z}~$より環同型$~f:\mathbb{Z}\to S~$がある。
$S\subset K~$なので$~f:\mathbb{Z}\to K~$とみることができる。
定理20より、$f=\hat{f}\circ\iota~$を満たす体準同型$~\hat{f}:\mathbb{Q}\to K~$がとれる。
$\mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\hat{f}=L~$とすると、$L~$は$~S~$を含む$~K~$の部分環である。
$\hat{f}~$は単射なので、$\mathbb{Q}\simeq L~$となる。
したがって、$L~$は体である。

また、$L'~$を$~S\subset L'\simeq\mathbb{Q}~$となる部分体とする。
このとき、環同型$~\hat{g}:\mathbb{Q}\to L'~$がとれる。
写像$~g:\mathbb{Z}\to L'~$を$~g=\hat{g}\circ\iota_{\mathbb{Z}}~$で定める。
整数.定理28の一意性から$~g=f~$となる。
写像$~\hat{g}~$を$~\mathbb{Q}~$から$~K~$への写像としてみれば、これは \[ f=\hat{g}\circ\iota \] を満たす体準同型である。
定理20の一意性より$~\hat{g}=\hat{f}~$となる。
したがって、 \[ L' = \mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\hat{g} = \mathop{\mathrm{Im}}\nolimits\hat{f} = L \] である。
$$\square$$


系22
$\mathbb{Q}~$は$~\mathbb{Z}~$を含む(同型を除いて)最小の体である。