多項式環 (5)モニック多項式
環$~A~$に対して、最高次の係数が$~1~$である一変数多項式、つまり \[ a_0+a_1X+\cdots+a_{n-1}X^{n-1}+X^n ~~~~~(a_0,\dots,a_{n-1}\in A) \] という形の多項式を$~A$上のモニック多項式という。
命題10
$A~$を可換環、$f(X)\in A[X]~$を$~n$次モニック多項式とする。このとき、$A[X]/(f(X))~$は$~\{\overline{1},\overline{X},\dots,\overline{X^{n-1}}\}~$で生成される階数$n~$の自由加群である。
(ただし、$\overline{g(X)}~$は$~g(X)\in A[X]~$の剰余類$~g(X)+(f(X))~$である。)
$\{\overline{1},\dots,\overline{X^{n-1}}\}~$で生成される$~A[X]/(f(X))~$の部分加群を$~M~$とおく。
$m\in\mathbb{N}~$を任意にとる。
このとき、$m\lt n~$なら明らかに$~\overline{X^m}\in M~$である。
$m\ge n~$とする。
$f(X)~$は最高次の係数が単元なので \[ X^m = q(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] を満たす$~q(X),r(X)\in A[X]~$が存在する。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$より、$a_0,\dots,a_{n-1}\in A~$があり \[ r(X) = a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1} \] と書くことができる。
このとき、$\overline{r(X)}=a_0\overline{1}+\cdots+a_{n-1}\overline{X^{n-1}}\in M~$となる。
よって、$\overline{X^m}=\overline{q(X)}\overline{f(X)}+\overline{r(X)}=\overline{r(X)}\in M~$となる。
したがって、任意の$~m\in\mathbb{N}~$に対して$~\overline{X^m}\in M~$となる。
任意の$~x\in A[X]/(f(X))~$に対して \[ x = \overline{a_0+\cdots+a_mX^m} = a_0\overline{1}+\cdots+a_m\overline{X^m} \] となる$~a_0,\dots,a_m~$がとれる。
よって、$\overline{1},\dots,\overline{X^m}\in M~$なので$~x\in M~$となる。
したがって、$A[X]/(f(X))=M~$である。
任意に$~a_0,\dots,a_{n-1}\in A~$をとり \[ a_0\overline{1}+\cdots+a_{n-1}\overline{X^{n-1}}=0 \] であるとする。
$\overline{a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1}}=a_0\overline{1}+\cdots+a_{n-1}\overline{X^{n-1}}=0~$なので \[ a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1}\in(f(X)) \] となる。
よって、$a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1}=g(X)f(X)~$となる$~g(X)\in A[X]~$がある。
$g(X)\neq0~$なら \[ n-1\ge\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1})=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(g(X)f(X))\ge n \] となるが、これは矛盾である。
よって、$g(X)=0~$であり$~a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1}=0~$となる。
したがって、$a_0=\cdots=a_{n-1}=0~$となるので、$\{\overline{1},\dots,\overline{X^{n-1}}\}~$は$~A$上1次独立である。
$$\square$$
$m\in\mathbb{N}~$を任意にとる。
このとき、$m\lt n~$なら明らかに$~\overline{X^m}\in M~$である。
$m\ge n~$とする。
$f(X)~$は最高次の係数が単元なので \[ X^m = q(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] を満たす$~q(X),r(X)\in A[X]~$が存在する。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$より、$a_0,\dots,a_{n-1}\in A~$があり \[ r(X) = a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1} \] と書くことができる。
このとき、$\overline{r(X)}=a_0\overline{1}+\cdots+a_{n-1}\overline{X^{n-1}}\in M~$となる。
よって、$\overline{X^m}=\overline{q(X)}\overline{f(X)}+\overline{r(X)}=\overline{r(X)}\in M~$となる。
したがって、任意の$~m\in\mathbb{N}~$に対して$~\overline{X^m}\in M~$となる。
任意の$~x\in A[X]/(f(X))~$に対して \[ x = \overline{a_0+\cdots+a_mX^m} = a_0\overline{1}+\cdots+a_m\overline{X^m} \] となる$~a_0,\dots,a_m~$がとれる。
よって、$\overline{1},\dots,\overline{X^m}\in M~$なので$~x\in M~$となる。
したがって、$A[X]/(f(X))=M~$である。
任意に$~a_0,\dots,a_{n-1}\in A~$をとり \[ a_0\overline{1}+\cdots+a_{n-1}\overline{X^{n-1}}=0 \] であるとする。
$\overline{a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1}}=a_0\overline{1}+\cdots+a_{n-1}\overline{X^{n-1}}=0~$なので \[ a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1}\in(f(X)) \] となる。
よって、$a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1}=g(X)f(X)~$となる$~g(X)\in A[X]~$がある。
$g(X)\neq0~$なら \[ n-1\ge\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1})=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(g(X)f(X))\ge n \] となるが、これは矛盾である。
よって、$g(X)=0~$であり$~a_0+\cdots+a_{n-1}X^{n-1}=0~$となる。
したがって、$a_0=\cdots=a_{n-1}=0~$となるので、$\{\overline{1},\dots,\overline{X^{n-1}}\}~$は$~A$上1次独立である。
$A,B~$を環、$A\subset B~$とする。
$x\in B~$がある$~A~$上のモニック多項式の根になっているとき、すなわち \[ a_0+a_1x+\cdots+a_{n-1}x^{n-1}+x^n=0 \] となる$~a_0,\dots,a_{n-1}\in A~$があるとき、$x~$は$~A$上整であるという。
また、$B~$のすべての元が$~A$上整であるとき、$B~$は$~A$上整である、または$~A~$の整拡大という。
命題11
$A~$を可換環、$B~$を整域、$A\subset B~$とする。$B~$が$~A$上整とすれば、次が成り立つ。 \[ A:体 ~\Longleftrightarrow~ B:体 \]
$A~$を体とし、任意に$~x\in B\setminus\{0\}~$をとる。
$B~$は$~A$上整なので \[ a_0+\cdots+a_{n-1}x^{n-1}+x^n=0 \] となる$~a_0,\dots,a_{n-1}\in A~$がとれる。
$a_i\neq0~$となる$~i\in\{0,\dots,n-1\}~$の最小値を$~i~$とする。
よって、 \[ a_ix^i+\cdots+a_{n-1}x^{n-1}+x^n=0 \] となる。
このとき、$x^i(a_i+\cdots+a_{n-1}x^{n-i-1}+x^{n-i})=0~$である。
$x\neq0~$より$~x^i\neq0~$であり、$B~$は整域なので \[ a_i+\cdots+a_{n-1}x^{n-i-1}+x^{n-i}=0 \] が成り立つ。
よって、$x(a_{i+1}+\cdots+a_{n-i-1}x^{n-i-2}+x^{n-i-1})=-a_i~$なので \[ -{a_i}^{-1}(a_{i+1}+\cdots+a_{n-i-1}x^{n-i-2}+x^{n-i-1}) \] は$~x~$の乗法逆元である。
したがって、$B~$は体である。
$B~$を体とし、任意に$~x\in A\setminus\{0\}~$をとる。
$x\in A\subset B~$で$~B~$は体なので乗法逆元$~y=x^{-1}~$がある。
また、$B~$は$~A$上整なので \[ a_0+\cdots+a_{n-1}y^{n-1}+y^n=0 \] となる$~a_0,\cdots,a_{n-1}\in A~$がとれる。
両辺に$~x^n~$を掛けると$~a_0x^n+\cdots+a_{n-1}x+1=0~$となる。 よって、$x(a_0x^{n-1}+\cdots+a_{n-1})=-1~$なので \[ x^{-1} = -(a_0x^{n-1}+\cdots+a_{n-1}) \in A \] となる。
したがって、$A~$は体である。
$$\square$$
$B~$は$~A$上整なので \[ a_0+\cdots+a_{n-1}x^{n-1}+x^n=0 \] となる$~a_0,\dots,a_{n-1}\in A~$がとれる。
$a_i\neq0~$となる$~i\in\{0,\dots,n-1\}~$の最小値を$~i~$とする。
よって、 \[ a_ix^i+\cdots+a_{n-1}x^{n-1}+x^n=0 \] となる。
このとき、$x^i(a_i+\cdots+a_{n-1}x^{n-i-1}+x^{n-i})=0~$である。
$x\neq0~$より$~x^i\neq0~$であり、$B~$は整域なので \[ a_i+\cdots+a_{n-1}x^{n-i-1}+x^{n-i}=0 \] が成り立つ。
よって、$x(a_{i+1}+\cdots+a_{n-i-1}x^{n-i-2}+x^{n-i-1})=-a_i~$なので \[ -{a_i}^{-1}(a_{i+1}+\cdots+a_{n-i-1}x^{n-i-2}+x^{n-i-1}) \] は$~x~$の乗法逆元である。
したがって、$B~$は体である。
$B~$を体とし、任意に$~x\in A\setminus\{0\}~$をとる。
$x\in A\subset B~$で$~B~$は体なので乗法逆元$~y=x^{-1}~$がある。
また、$B~$は$~A$上整なので \[ a_0+\cdots+a_{n-1}y^{n-1}+y^n=0 \] となる$~a_0,\cdots,a_{n-1}\in A~$がとれる。
両辺に$~x^n~$を掛けると$~a_0x^n+\cdots+a_{n-1}x+1=0~$となる。 よって、$x(a_0x^{n-1}+\cdots+a_{n-1})=-1~$なので \[ x^{-1} = -(a_0x^{n-1}+\cdots+a_{n-1}) \in A \] となる。
したがって、$A~$は体である。