多項式環 (3)根
$A~$を可換環とする。
$f(X)=a_0+\cdots+a_nX^n\in A[X],a\in A~$に対して \[ f(a) = a_0+\cdots+a_na^n \in A \] と定め、これ考える操作を代入という。
また、$f(X)\in A[X]~$に対して \[ f(a) = 0 \] となるような$~a\in A~$を$~f(X)~$の根という。
命題5
$A~$を整域、$f(X)\in A[X]~$とする。$\alpha_1,\dots,\alpha_n\in A~$を相異なる$~f(X)~$の根とすれば \[ f(X) = g(X)(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる$~g(X)\in A[X]~$が存在する。
$n~$に関する数学的帰納法で示す。
$\alpha\in A~$を$~f(X)~$の根とする。
このとき、$X-\alpha\in A[X]~$は最高次の係数が単元であるので、定理3より \[ f(X) = q(X)(X-\alpha)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(X-\alpha)=1 \] を満たす$~q(X),r(X)\in A[X]~$が存在する。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt 1~$より$~r(X)=b\in A~$となる。 \[ b = r(\alpha) = f(\alpha)-q(\alpha)(X-\alpha) = 0-q(\alpha)0 =0 \] となる。
よって、$f(X) = q(X)(X-\alpha)~$である。
$\alpha_1,\dots,\alpha_n\in A~$を相異なる$~f(X)~$の根とする。
このとき、$f(X)=q(X)(X-\alpha_n)~$となる$~q(X)\in A[x]~$がある。
各$~i\in\{1,\dots,n-1\}~$に対して \[ q(\alpha_i)(\alpha_i-\alpha_n) = f(\alpha_i) = 0 \] となる。
仮定より$~\alpha_i-\alpha_n\neq0~$であり、$A~$は整域なので$~q(\alpha_i)=0~$となる。
よって、$\alpha_1,\dots,\alpha_{n-1}~$は$~q(X)~$の相異なる根である。
帰納法の仮定より、 \[ q(X) = g(X)(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_{n-1}) \] となる$~g(X)\in A[X]~$が存在する。
このとき、 \[ f(X) = q(X)(X-\alpha_n) = g(X)(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる。
$$\square$$
$\alpha\in A~$を$~f(X)~$の根とする。
このとき、$X-\alpha\in A[X]~$は最高次の係数が単元であるので、定理3より \[ f(X) = q(X)(X-\alpha)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(X-\alpha)=1 \] を満たす$~q(X),r(X)\in A[X]~$が存在する。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt 1~$より$~r(X)=b\in A~$となる。 \[ b = r(\alpha) = f(\alpha)-q(\alpha)(X-\alpha) = 0-q(\alpha)0 =0 \] となる。
よって、$f(X) = q(X)(X-\alpha)~$である。
$\alpha_1,\dots,\alpha_n\in A~$を相異なる$~f(X)~$の根とする。
このとき、$f(X)=q(X)(X-\alpha_n)~$となる$~q(X)\in A[x]~$がある。
各$~i\in\{1,\dots,n-1\}~$に対して \[ q(\alpha_i)(\alpha_i-\alpha_n) = f(\alpha_i) = 0 \] となる。
仮定より$~\alpha_i-\alpha_n\neq0~$であり、$A~$は整域なので$~q(\alpha_i)=0~$となる。
よって、$\alpha_1,\dots,\alpha_{n-1}~$は$~q(X)~$の相異なる根である。
帰納法の仮定より、 \[ q(X) = g(X)(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_{n-1}) \] となる$~g(X)\in A[X]~$が存在する。
このとき、 \[ f(X) = q(X)(X-\alpha_n) = g(X)(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_n) \] となる。
系6
$A~$を整域、$f(X)\in A[X]~$とする。$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n\in\mathbb{N}~$のとき、$f(X)~$の相異なる根は高々$n$個である。
$f(X)~$の相異なる根が$~n+1$個以上あると仮定して矛盾を導く。
$\alpha_1,\dots,\alpha_{n+1}\in A~$を$~f(X)~$の相異なる根とする。
このとき、命題5より \[ f(X) = g(X)(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_{n+1}) \] となる$~g(X)\in A[X]~$がとれる。
各$~X-\alpha_i~$は最高次の係数が零因子でないので \begin{align} \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(g(X)(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_{n+1}))\\ &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)+\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(X-\alpha_1)+\cdots+\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(X-\alpha_{n+1})\\ &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)+1+\cdots+1\\ &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)+(n+1)\\ &\ge n+1 \end{align} となるが、これは$~\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$に矛盾である。
$$\square$$
$\alpha_1,\dots,\alpha_{n+1}\in A~$を$~f(X)~$の相異なる根とする。
このとき、命題5より \[ f(X) = g(X)(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_{n+1}) \] となる$~g(X)\in A[X]~$がとれる。
各$~X-\alpha_i~$は最高次の係数が零因子でないので \begin{align} \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(g(X)(X-\alpha_1)\cdots(X-\alpha_{n+1}))\\ &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)+\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(X-\alpha_1)+\cdots+\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(X-\alpha_{n+1})\\ &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)+1+\cdots+1\\ &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)+(n+1)\\ &\ge n+1 \end{align} となるが、これは$~\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=n~$に矛盾である。