多項式環 (2)次数
$A~$を可換環とする。
任意の$~f(X)\in A[X]\setminus\{0\}~$に対して、$n$次の係数が$~0~$でないような最大の$~n\in\mathbb{N}~$がとれる。
これを$~f(X)~$の次数といい、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)~$と書く。
$f(X)=0~$に関しては、形式的に$~\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=-\infty~$とする。
次数が$~n~(\in\mathbb{N})~$の多項式を$~n$次多項式という。
$(1)~$ $\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(f(X)+g(X))\le\mathrm{max}\{\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X),\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)\}$
$(2)~$ $f(X)~$または$~g(X)~$の最高次の係数が零因子でなければ$~f(X)g(X)\neq0~$であり、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(f(X)g(X))=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)+\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)~$となる。
$(1)~$ $M=\mathrm{max}\{m,n\}~$とすれば \[ f(X)+g(X) = (a_0+b_0)+\cdots+(a_M+b_M)X^M \] となるので、$\mathrm{deg}(f(X)+g(X))\le M~$である。
$(2)~$
このとき、
\[
f(X)g(X) = a_0b_0+\cdots+a_mb_nX^{m+n}
\]
であり、$a_m,b_n~$のどちらかは零因子でないので$~a_mb_n\neq0~$となる。
よって、$\mathrm{deg}(f(X)g(X))=m+n~$である。
このとき、任意の$~g(X)\in A[X]~$に対して \[ g(X) = q(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X) \lt \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] を満たす$~q(X),r(X)\in A[X]~$がただ1つ存在する。
$g(X)\neq0~$とし、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)~$に関する数学的帰納法で示す。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)=0~$のとき、$g(X)=a\in A\setminus\{0\}~$となる。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)\gt0~$なら$~q(X)=0,r(X)=a=g(X)~$とすればよい。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=0~$なら、$f(X)=u\in A^{\times}~$となる。
$u\in A^{\times}~$より、乗法逆元$~u^{-1}~$がとれる。
このとき、$q(X)=au^{-1},r(X)=0~$とすれば \begin{align} &g(X) = a = au^{-1}u+0 = q(X)f(X)+r(X)\\ &\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)=-\infty\lt0=\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \end{align} となる。
$n\in\mathbb{N}~$を任意にとり、$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X)=n~$とする。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)\gt n~$のときは$~q(X)=0,r(X)=g(X)~$とすればよい。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)=m\le n~$とする。
このとき、 \begin{align} f(X) &= a_0+\cdots+a_mX^m ~~~~~(a_m\neq0)\\ g(X) &= b_0+\cdots+b_nX^n ~~~~~(b_n\neq0) \end{align} となる$~a_0,\dots,a_m,b_0,\dots,b_n\in A~$がある。
仮定より、$a_m\in A^{\times}~$なので乗法逆元$~{a_m}^{-1}~$がとれる。
$q_0(X)=b_n{a_m}^{-1}X^{n-m}~$とおく($m\le n~$より$~q_0(X)\in A[X]$)。
$g'(X)=g(X)-q_0(X)f(X)~$とすれば、$g'(X)~$の$~n$次の係数は$~b-(b{a_m}^{-1})a_m=0~$である。
$\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g(X),\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(q_0(X)f(X))\le n~$なので$~\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g'(X)\le n~$である。
よって、$g(X)~$の$~n$次の係数は$~0~$なので$~\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits g'(X)\lt n~$である。
帰納法の仮定より \[ g'(X) = q_1(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] を満たす$~q_1(X),r(X)\in A[X]~$が存在する。
このとき、 \begin{align} g(X) &= g'(X)+q_0(X)f(X)\\ &= q_1(X)f(X)+r(X)+q_0(X)f(X)\\ &= (q_1(X)+q_0(X))f(X)+r(X) \end{align} となるので、$q(X)=q_1(X)+q_0(X)~$とすればよい。
また、任意の$~g(X)\in A[X]~$をとり、$q(X),r(X),q'(X),r'(X)\in A[X]~$を用いて \[ g(X) = q(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X) \lt \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] \[ g(X) = q'(X)f(X)+r'(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r'(X) \lt \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] と表されているとする。
このとき、$(q(X)-q'(X))f(X)=r'(X)-r(X)~$となる。
$f(X)~$の最高次の係数は単元、つまり零因子でない。
よって、もし$~q(X)-q'(X)\neq0~$ならば、 \begin{align} \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(r'(X)-r(X)) &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits((q(X)-q'(X))f(X))\\ &= \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits(q(X)-q'(X))+\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)\\ &\ge \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \end{align} となる。
しかし、これは$~\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X),\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r'(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X)~$であることに矛盾する。
したがって、$q(X)-q'(X)=0~$である。
よって、$q(X)=q'(X)~$となり、$r(X)=r'(X)~$もわかる。
写像$~N:K[X]\setminus\{0\}\to\mathbb{N}~$を \[ N(f(X)) = \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) ~~~~~(f(X)\in K[X]\setminus\{0\}) \] で定める。
任意に、$f(X),g(X)\in K[X]~$をとり$~f(X)\neq0~$とする。
このとき、$f(X)~$の最高次の係数は$0$でない。
$K~$は体なので$~f(X)~$の最高次の係数は単元となる。
よって、定理3より \[ g(X) = q(X)f(X)+r(X) ~かつ~ \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X)\lt\mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) \] を満たす$~q(X),r(X)\in K[X]~$がとれる。
$r(X)\neq0~$なら \[ N(r(X)) = \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits r(X) \lt \mathop{\mathrm{deg}}\nolimits f(X) = N(f(X)) \] となるので、$r(X)=0~$または$~N(r(X))\lt N(f(X))~$が成り立つ。