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自然数 (4)自然数の乗法


命題14
任意の$~n\in\mathbb{N}~$に対して、次を満たす写像$~\pi_n:\mathbb{N}\to\mathbb{N}~$がただ1つ存在する。 \begin{align} (1)&~\pi_n(0)=0\\ (2)&~\pi_n\circ \sigma=\sigma_n\circ\pi_n \end{align}

定理1において、$X,x_*,\varphi~$として$~\mathbb{N},0,\sigma_n~$を当てはめると、条件を満たす写像$~\pi_n:\mathbb{N}\to\mathbb{N}~$を一意的に構成できる。
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この写像$~\pi_n~$によって演算$~\mathbb{N}\times\mathbb{N}\to\mathbb{N};(m,n)\mapsto\pi_n(m)~$が作れる。
この$~\pi_n(m)~$を$~m,n~$のといい、$m\cdot n~$または$~m\times n~$と表す。
また、この演算を(自然数の)乗法という。

定理15
任意の$~n\in\mathbb{N}~$について、次が成り立つ。 \[ n\cdot0=0\cdot n=0 \]

$0\cdot n=\pi_n(0)=0~$となる。

$\pi_0(0)=0~$であり、$k\in\mathbb{N}~$について$~\pi_0(k)=0~$とすると、 $$ \pi_0(k+1)=\pi_0(\sigma(k)) =\sigma_0(\pi_0(k)) =\sigma_0(0) =0 $$ となり、$k+1~$でも成り立つ。
よって、すべての$~n\in\mathbb{N}~$について$~n\cdot0=0~$である。
$$\square$$


補題16
任意の$~m,n\in\mathbb{N}~$について、次が成り立つ。 \begin{align} (1)&~(m+1)\cdot n=(m\cdot n)+n\\ (2)&~m\cdot(n+1)=(m\cdot n)+m \end{align}

$(1)~$ 定義より \begin{equation*} \begin{split} (m+1)\cdot n&=\pi_n(m+1)\\ &=\pi_n(\sigma(m))\\ &=\sigma_n(\pi_n(m))\\ &=\sigma_n(m\cdot n)\\ &=(m\cdot n)+n \end{split} \end{equation*} となる。

$(2)~$ $\tau_n(m)=(m\cdot n)+m~$とおく。 定理15より $$ \tau_n(0)=(0\cdot n)+0=0+0=0 $$ 加法の結合性、可換性と$(1)$より \begin{equation*} \begin{split} (\sigma_{n+1}\circ\tau_n)(m)&=\sigma_{n+1}((m\cdot n)+m)\\ &=((m\cdot n)+m)+(n+1)\\ &=((m\cdot n)+n)+(m+1)\\ &=((m+1)\cdot n)+(m+1)\\ &=\tau_{n}(m+1)\\ &=(\tau_n\circ\sigma)(m) \end{split} \end{equation*} とでき、$\sigma_{n+1}\circ\tau_n=\tau_n\circ\sigma~$となる。
命題14の一意性より$~\pi_{n+1}=\tau_n~$であり、
つまり$~m\cdot(n+1)=(m\cdot n)+m~$を得る。

$$\square$$


定理17
任意の$~m,n,k\in\mathbb{N}~$について、次が成り立つ。 \begin{align} (1)&~n\cdot1=1\cdot n=n\\ (2)&~m\cdot n=n\cdot m\\ \end{align}

$(1)~$ 定義より \begin{align} 1\cdot n&=\pi_n(1)\\ &=\pi_n(\sigma(0))\\ &=\sigma_n(\pi_n(0))\\ &=\sigma_n(0)=n \end{align} となる。

$0\cdot1=\pi_1(0)=0~$なので$~n=0~$のときは成り立つ。
$l\in\mathbb{N}~$について$~l\cdot1=l~$となるとする。
このとき、 \begin{align} (l+1)\cdot1&=\sigma(l)\cdot1\\ &=\pi_1(\sigma(l))\\ &=\sigma_1(\pi_1(l))\\ &=(l\cdot1)+1\\ &=l+1\\ \end{align} となるので$~l+1~$でも成り立つ。
よって、任意の$~n\in\mathbb{N}~$について$~n\cdot1=n~$である。

$(2)~$ $m=0~$のとき、定理15より$~0\cdot n=n\cdot0~$である。
$l\in\mathbb{N}~$について$~l\cdot n=n\cdot l~$と仮定すると、補題16より $$ (l+1)\cdot n=(l\cdot n)+n=(n\cdot l)+n=n\cdot(l+1) $$ となるので、$l+1~$のときも成り立つ。
よって、すべての$~m\in\mathbb{N}~$について$~m\cdot n=n\cdot m~$となる。

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$(1)$は$~1~$が自然数の乗法において単位元であることを意味する。
$(2)$の性質は自然数の乗法の可換性である。

定理18
任意の$~m,n,k\in\mathbb{N}~$について、次が成り立つ。 \begin{align} (1)&~m\cdot(n+k)=(m\cdot n)+(m\cdot k)\\ (2)&~(m+n)\cdot k=(m\cdot k)+(n\cdot k) \end{align}

$(1)~$ $k=0~$のとき、 $$ m\cdot(n+0)=m\cdot n =m\cdot n+0 =m\cdot n+m\cdot 0 $$ となる。
$l\in\mathbb{N}~$について$~m\cdot(n+l)=(m\cdot n)+(m\cdot l)~$とすると、 \begin{equation*} \begin{split} m\cdot(n+(l+1))&=m\cdot((n+l)+1)\\ &=(m\cdot(n+l))+m\\ &=((m\cdot n)+(m\cdot l))+m\\ &=(m\cdot n)+((m\cdot l)+m)\\ &=(m\cdot n)+(m\cdot(l+1)) \end{split} \end{equation*} となり、$l+1~$についても成り立つ。
よって、すべての$~k\in\mathbb{N}~$について$~(m+n)\cdot k=(m\cdot k)+(n\cdot k)~$が成り立つ。

$(2)~$ $(1)$より$~k\cdot(m+n)=(k\cdot m)+(k\cdot n)~$が得られ、乗法の可換性より $$ (m+n)\cdot k=(m\cdot k)+(n\cdot k) $$ となる。

$$\square$$

これらの性質を自然数の加法と乗法における分配法則という。

定理19
任意の$~m,n,k\in\mathbb{N}~$について、次が成り立つ。 \begin{align} (1)&~(m\cdot n)\cdot k=m\cdot(n\cdot k)\\ (2)&~m\neq0~かつ~n\neq0\Longrightarrow m\cdot n\neq0\\ (3)&~k\neq0~のとき~m\lt n\Longrightarrow m\cdot k\lt n\cdot k\\ (4)&~k\neq0~のとき~m\cdot k=n\cdot k\Longrightarrow m=n \end{align}

$(1)~$ $k=0~$のときは \begin{align} &(m\cdot n)\cdot0=0\\ &m\cdot(n\cdot0)=m\cdot0=0 \end{align} となるので、$(m\cdot n)\cdot0=m\cdot(n\cdot0)~$である。
$l\in\mathbb{N}~$に対して$~(m\cdot n)\cdot l=m\cdot(n\cdot l)~$とする。
\begin{equation*} \begin{split} (m\cdot n)\cdot(l+1)&=((m\cdot n)\cdot l)+(m\cdot n)\\ &=(m\cdot(n\cdot l))+(m\cdot n)\\ &=m\cdot((n\cdot l)+n)\\ &=m\cdot(n\cdot(l+1)) \end{split} \end{equation*} となるので、$l+1~$のときも成り立つ。
よって、すべての$~k\in\mathbb{N}~$において$~(m\cdot n)\cdot k=m\cdot(n\cdot k)~$となる。

$(2)~$ $m\neq0~$かつ$~n\neq0~$とすると、ある$i,j\in\mathbb{N}~$があり$~m=i+1,n=j+1~$となる。
このとき、 \begin{equation*} \begin{split} m\cdot n&=(i+1)\cdot(j+1)\\ &=(i\cdot(j+1))+(j+1)\\ &=((i\cdot(j+1))+j)+1 \end{split} \end{equation*} となるので、$m\cdot n\neq0~$である。

$(3)~$ $m\lt n~$とすると、$m+l=n~$となる$~l\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$がとれる。
このとき、 $$ (m\cdot k)+(l\cdot k)=(m+l)\cdot k=n\cdot k $$ であり、$k,l\neq0~$なので$(2)$より$~l\cdot k\neq0~$となるので、$m\cdot k\lt n\cdot k~$である。

$(4)~$ $m\neq n~$と仮定すると、$m\lt n~$または$~n\lt m~$であり、$(3)$と$~k\neq0~$より \begin{align} &m\lt n\Longrightarrow m\cdot k\lt n\cdot k\\ &n\lt m\Longrightarrow n\cdot k\lt m\cdot k \end{align} となるので、$m\cdot k\neq n\cdot k~$である。
対偶をとると、$m\cdot k=n\cdot k\Rightarrow m=n~$が得られる。

$$\square$$

$(1)$の性質は乗法における結合性である。
これらより自然数全体の集合$~\mathbb{N}~$は乗法について可換なモノイドであることがわかる。
$(2)$は$~0~$以外の零因子が存在しないことを意味する。

 乗法の演算子は省略されることが多い。 つまり、$m\cdot n~$は$~mn~$と書かれる。
また、加法と乗法があったとき、加法より乗法の方を優先して計算することにする。
よって、$(m\cdot n)+(k\cdot l)~$は \[ mn+kl \] と略記する。