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自然数 (1)自然数の公理


自然数の公理


 自然数の集合$~\mathbb{N}~$とはPeanoの公理を満たす集合である。 ここで、集合$~N~$もとい順序付き3つ組$~(N,n_*,\sigma)~$がPeanoの公理を満たすとは \begin{align} (\text{N}1)&~n_*\in N\\ (\text{N}2)&~\sigma:N\longrightarrow N\\ (\text{N}3)&~n_*\notin\sigma(N)\\ (\text{N}4)&~\sigma~は単射\\ (\text{N}5)&~{}^{\forall}S\subset N,n_*\in S~かつ~\sigma(S)\subset S\Longrightarrow S=N \end{align} が成り立つことをいう。

$\mathbb{N}~$の本質的な一意性



定理1
3つ組$~(N,n_*,\sigma)~$がPeanoの公理を満たすものとし、$X~$を空でない集合、$x_*\in X~$を元、$\varphi:X\to X~$を写像とする。
このとき、次の条件を満たす写像$~f:N\to X~$がただ1つ存在する。 \begin{align} (1)&~f(n_*)=x_*\\ (2)&~f\circ \sigma=\varphi\circ f \end{align}

$N\times X~$の部分集合$~A~$のうち条件 \begin{align} (\text{a})&~(n_*,x_*)\in A\\ (\text{b})&~(n,x)\in A\Longrightarrow(\sigma(n),\varphi(x))\in A \end{align} を満たしているもの全体の集合を$~\mathcal{A}~$とし、集合$~B~$を次で定義する。 \[ B:=\bigcap\mathcal{A} \]
主張1.1
$B~$は$~\mathcal{A}~$の元のうち$\subset$において最小のものである。

$B~$がすべての$~A\in\mathcal{A}~$について$~B\subset A~$となるのは定義より明らかである。
条件$(\text{a})$より、${}^{\forall}A\in\mathcal{A},(n_*,x_*)\in A~$なので、$(n_*,x_*)\in B~$である。
また、 \begin{align} (n,x)\in B&\Longrightarrow{}^{\forall}A\in\mathcal{A},(n,x)\in A\\ &\Longrightarrow{}^{\forall}A\in\mathcal{A},(\sigma(n),\varphi(x))\in A\\ &\Longrightarrow(\sigma(n),\varphi(x))\in B \end{align} となるので、$B~$は条件$(\text{a}),(\text{b})$を満たし、$B\in\mathcal{A}~$となる。
よって、$B~$は$~\mathcal{A}~$の元のうち包含関係において最小である。
$$\square$$


任意の$~n\in N~$について$~X~$の部分集合$~X_n~$を次で定める。 $$ X_n:=\{x\in X\mid(n,x)\in B\} $$
主張1.2
任意の$~n\in N~$について、$X_n~$は単元集合である。

$X_n~$が単元集合となるような$~n\in N~$全体の集合を$~S~$とおく。

$B\in\mathcal{A}~$より$~(n_*,x_*)\in B~$となり、$x_*\in X_{n_*}~$である。
$x_*~$と相異なる$~y\in X~$があり、$y\in X_{n_*}~$となると仮定する。
このとき、$B':=B\setminus\{(n_*,y)\}~$とすると、$(n_*,y)\in B~$なので$~B'\subsetneq B~$である。
また、$(n_*,x_*)\neq(n_*,y)~$なので$~(n_*,x_*)\in B'~$となる。
$(n,x)\in B'~$とすると、$(\sigma(n),\varphi(x))\neq(n_*,y)~$なので$~(\sigma(n),\varphi(x))\in B'~$となる。
よって、$B'~$は条件$~(\text{a}),(\text{b})~$を満たすため$~B'\in\mathcal{A}~$である。
しかし、これは$~B~$の最小性に矛盾する。
したがって、$X_{n_*}~$の元は$~x_*~$のみであり、$n_*\in S~$である。

$k\in S~$を任意にとり、$X_k=\{x_k\}~$とする。
このとき、$(k,x_k)\in B~$となるので$~(\sigma(k),\varphi(x_k))\in B~$となる。
よって、$\varphi(x_k)\in X_{\sigma(k)}~$である。
$\varphi(x_k)~$と相異なる$~y'\in X~$があり、$y'\in X_{\sigma(k)}~$となると仮定する。
このとき、$B'':=B\setminus\{(\sigma(k),y')\}~$とすると、$(\sigma(k),y')\in B~$なので$~B''\subsetneq B~$である。
また、$(n_*,x_*)\neq(\sigma(k),y')~$なので$~(n_*,x_*)\in B''~$となる。
$(n,x)\in B''~$とし、$(\sigma(n),\varphi(x))=(\sigma(k),y')~$と仮定する。
$\sigma(n)=\sigma(k)~$であり、$\sigma~$は単射なので$~n=k~$となる。
よって、$(n,x)=(k,x_k)~$であり、$\varphi(x)=\varphi(x_k)~$となる。
しかし、これは$~\varphi(x)=y'~$と$~\varphi(x_k)\neq y'~$に矛盾する。
したがって、$(\sigma(n),\varphi(x))\neq(\sigma(k),y')~$でなければならない。
ゆえに、$(\sigma(n),\varphi(x))\in B''~$となり、
$B''~$は条件$~(\text{a}),(\text{b})~$を満たすため$~B''\in\mathcal{A}~$である。
しかし、これは$~B~$の最小性に矛盾する。
したがって、$X_{\sigma(k)}~$の元は$~\varphi(x_k)~$のみであり、$\sigma(k)\in S~$である。
つまり、${}^{\forall}k\in S,\sigma(k)\in S~$が示せたので$~\sigma(S)\subset S~$となる。

以上より、$n_*\in S~$かつ$~\sigma(S)\subset S~$を示したので$~S=N~$である。
つまり、任意の$~n\in N~$について$~X_n~$は単元集合である。
$$\square$$


ここで、任意の$~n\in N~$に対して$~X_n=\{x_n\}~$とする。
このとき、明らかに$~x_{\sigma(n)}=\varphi(x_n)~$である。

$f:N\to X~$を$~f(n)=x_n~$となるように定める。
明らかに$~f(n_*)=x_*~$である。 また、 $$ f(\sigma(n))=x_{\sigma(n)}=\varphi(x_n)=\varphi(f(n)) $$ となるので、$f\circ\sigma=\varphi\circ f~$となる。
よって、条件$(1),(2)~$を満たす写像$~f:N\to X~$が構成できた。

条件$(1),(2)$を満たす2つの写像$~f,f':N\to X~$を任意にとる。
$S':=\{n\in N\mid f(n)=f'(n)\}~$とおく。
条件$(1)$より、$f(n_*)=x_*=f'(n_*)~$となるので$~n_*\in S'~$である。
また、$n\in S'~$とすると条件$(2)$より $$ f(\sigma(n))=\varphi(f(n))=\varphi(f'(n))=f'(\sigma(n)) $$ となるので、$\sigma(n)\in S'~$である。
よって、$\sigma(S')\subset S'~$となり、$N=S'~$である。
つまり、任意の$~n\in N~$に対して$~f(n)=f'(n)~$となっているので、$f=f'~$である。
したがって、条件$(1),(2)$を満たす写像は一意的である。
以上より定理1は示された。
$$\square$$


この定理において、$X,x_*,\varphi~$として$~N,n_*,\sigma~$を当てはめると、 \begin{align} (1)&~f(n_*)=n_*\\ (2)&~f\circ\sigma=\sigma\circ f \end{align} を満たす写像$~f:N\to N~$がただ1つ存在する。
恒等写像$~\mathrm{id}_N:N\to N~$がこの条件$(1),(2)$を満たすので、この$~f~$は恒等写像である。

定理2
2つの3つ組$~(N,n_*,\sigma),(N',n_*',\sigma')~$がPeanoの公理を満たすとする。
このとき、次の条件を満たす全単射$~f:N\to N'~$がただ1つ存在する。
\begin{align} (1)&~f(n_*)=n_*'\\ (2)&~f\circ \sigma=\sigma'\circ f \end{align}

定理1において、$X,x_*,\varphi~$として$~N',n_*',\sigma'~$を当てはめると、条件を満たす写像$~f:N\to N'~$を一意的に構成できる。

定理1において、$N,n_*,\sigma~$として$~N',n_*',\sigma'~$を、$X,x_*,\varphi~$として$~N,n_*,\sigma~$を当てはめると、
次の条件を満たす写像$~f':N'\to N~$が一意的に構成できる。 \begin{align} (1)'&~f'(n_*')=n_*\\ (2)'&~f'\circ \sigma'=\sigma\circ f' \end{align} 写像$~g:N\to N~$を$~g:=f'\circ f~$と定義する。
$g(n_*)=f'(f(n_*))=f'(n_*')=n_*~$であり、任意の$~n\in N~$に対して、 \begin{align} g(\sigma(n))&=f'(f(\sigma(n)))\\ &=f'(\sigma'(f(n)))\\ &=\sigma(f'(f(n)))\\ &=\sigma(g(n)) \end{align} となるので、$g~$は定理1において$X,x_*,\varphi~$を$~N,n_*,\sigma~$としたときの条件$(1),(2)$を満たす。
よって、$g=f'\circ f~$は恒等写像となる。
同様にして、$f\circ f':N'\to N'$が恒等写像になることもわかる。
したがって、$f,f'~$は互いに逆写像であり、$f,f'~$は全単射となる。
$$\square$$


 これによって、2つの3つ組$~(N,n_*,\sigma)~$と$~(N',n_*',\sigma')~$がともにPeanoの公理を満たすとき、$N~$から$~N'~$への性質(特に条件$(\text{N}1)$から$(\text{N}5)$)を保存する全単射がある。
よって、$N'~$の性質を調べたいとき、$N~$の性質がわかっていれば、性質を保存する全単射によって$~N'~$の性質を記述できる。
なので、Peanoの公理を満たす集合は本質的にはただ1つ考えるだけでよい。
それを$~\mathbb{N}~$とし、集合$~\mathbb{N}~$の元を自然数という。
日常の自然数の表記を \begin{align} & 0:=n_*\\ & 1:=\sigma(0)\\ & 2:=\sigma(1)\\ & 3:=\sigma(2)\\ & 4:=\sigma(3)\\ & 5:=\sigma(4)\\ &~\vdots \end{align} と定義していく。
(1)自然数の公理