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自然数 (3)自然数の順序関係


 自然数$~\mathbb{N}~$上の関係$\le$を次で定義する。 $$ m\le n\Longleftrightarrow{}^{\exists}k\in\mathbb{N}~\mathrm{s.t.}~m+k=n $$ $m\le n~$は$~n\ge m~$とも書く。

定理8
$\mathbb{N}~$上の関係$\le$は、任意の$~m,n,k\in\mathbb{N}~$について次を満たす。 \begin{align} (1)&~n\le n\\ (2)&~m\le n~かつ~n\le m\Longrightarrow m=n\\ (3)&~m\le n~かつ~n\le k\Longrightarrow m\le k\\ \end{align}

$(1)~$ $n+0=n~$なので$~n\le n~$である。

$(2)~$ $m\le n~$より、$m+l=n~$となる$~l\in\mathbb{N}~$がとれる。
また$~n\le m~$より、$n+l'=m~$となる$~l'\in\mathbb{N}~$がとれる。
よって、$(n+l')+l=n~$となるので、補題7$(3)$より$~l'+l=0~$である。
また補題7$(4)$より$~l'=l=0~$となる。
したがって、 $$ m=n+l'=n+0=n $$ が成り立つ。

$(3)~$ $m\le n~$より、$m+l=n~$となる$~l\in\mathbb{N}~$がとれる。
また$~n\le k~$より、$n+l'=k~$となる$~l'\in\mathbb{N}~$がとれる。
このとき、$m+(l+l')=k~$とできるので、$m\le k~$である。

$$\square$$

これによって、$\mathbb{N}~$上の関係$\le$は順序関係であることがわかる。
$m\le n~$かつ$~m\neq n~$のとき$~m\lt n~$(または$~n\gt m~$)と書く。
また、$m\lt n~$のとき、$m~$は$~n~$より小さい、$n~$は$~m~$より大きいという。

命題9
$\mathbb{N}~$上の関係$\lt$は、任意の$~m,n,k\in\mathbb{N}~$について次を満たす。 \begin{align} (1)&~m\lt n\Longleftrightarrow{}^{\exists}l\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~\mathrm{s.t.}~m+l=n\\ (2)&~m\lt n~かつ~n\lt k\Longrightarrow m\lt k\\ (3)&~m\lt n\Longleftrightarrow m+k\lt n+k \end{align}

$(1)~$ $m\lt n~$とすると、$m\le n~$なので$~m+l=n~$となる$~l\in\mathbb{N}~$が存在する。
$l=0~$と仮定すると、$m=n~$となり$~m\lt n~$に矛盾する。

逆に、$m+l=n~$となる$~l\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$がとれたとする。
$l\in\mathbb{N}~$なので$~m\le n~$である。
また、$m=n~$と仮定すれば、$l=0~$が得られるため矛盾する。

$(2)~$ $m\lt n~$より、$m+l=n~$となる$~l\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$がとれる。
また$~n\lt k~$より、$n+l'=k~$となる$~l'\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$がとれる。
このとき、$m+(l+l')=k~$とでき、$l+l'\neq0~$なので$~m\lt k~$である。

$(3)~$ 定義より、次が成り立つ。 \begin{equation*} \begin{split} m\lt n&\Longleftrightarrow{}^{\exists}l\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~\mathrm{s.t.}~m+l=n\\ &\Longleftrightarrow{}^{\exists}l\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~\mathrm{s.t.}~(m+l)+k=n+k\\ &\Longleftrightarrow m+k\lt n+k \end{split} \end{equation*}

$$\square$$


命題10
任意の$~m,n\in\mathbb{N}~$について次が成り立つ。 \begin{align} (1)&~m\lt n\Longleftrightarrow m+1\le n\\ (2)&~m\lt n+1\Longleftrightarrow m\le n \end{align}

$(1)~$ $m\lt n~$とすると、$m+k=n~$となる$~k\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$がとれる。
このとき$~k\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$より、$k=l+1~$となる$~l\in\mathbb{N}~$がとれる。
よって、$(m+1)+l=m+(l+1)=n~$となるので$~m+1\le n~$である。

逆に、$m+1\le n~$とすると、$(m+1)+k=n~$となる$~k\in\mathbb{N}~$がとれる。
このとき、$m+(k+1)=n~$となり$~k+1\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$なので、$m\lt n~$である。

$(2)~$ $m\lt n+1~$とすると、$m+k=n+1~$となる$~k\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$がとれる。
このとき$~k\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$より、$k=l+1~$となる$~l\in\mathbb{N}~$がとれる。
よって、$(m+l)+1=m+(l+1)=n+1~$となるので、$m+l=n~$であり$~m\le n~$となる。

逆に、$m\le n~$とすると、$m+k=n~$となる$~k\in\mathbb{N}~$がとれる。
このとき、$m+(k+1)=n+1~$となり$~k+1\in\mathbb{N}\setminus\{0\}~$なので、$m\lt n+1~$である。

$$\square$$


定理11
任意の$~m,n\in\mathbb{N}~$について次が成り立つ。 \[ m\lt n~または~n\lt m~または~m=n \]

$m+0=m~$なので$~0\le m~$となり、$n=0~$のときは成り立つ。
$k\in\mathbb{N}~$について、$m\lt k,k\lt m,m=k~$のいずれかが成り立っているとする。
$m\lt k~$なら$~m\lt k\lt k+1~$である。
$k\lt m~$なら$~k+1\le m~$となる。
$m=k~$なら$~m=k\lt k+1~$である。
よって、$m\lt k+1,k+1\lt m,m=k+1~$のいずれかが成り立っている。
したがって、帰納法によりすべての自然数$~n~$について $$ m\lt n~または~n\lt m~または~m=n $$ が成り立つ。
$$\square$$

これによって、関係$\le$は$~\mathbb{N}~$上の全順序関係であることがわかる。

定理12
任意の空でない$~\mathbb{N}~$の部分集合は$\le$における最小元をもつ。

$S~$を$~\mathbb{N}~$の空でない任意の部分集合とする。
$$ T:=\{n\in\mathbb{N}\mid{}^{\forall}x\in S,n\le x\} $$ と定義する。
任意の自然数$~n~$に対して$~0\le n~$なので、$0\in T~$となるので、$T\neq\emptyset~$である。
$S~$が空でないので$~x\in S~$がとれ、$x\lt x+1~$より$~x+1\notin T~$である。
よって、$T\neq\mathbb{N}~$である。
したがって、$m\in T~$かつ$~m+1\notin T~$となる$~m\in\mathbb{N}~$が存在する。
$m\notin S~$と仮定すると、 \begin{equation*} \begin{split} {}^{\forall}x\in S,m\lt x&\Longrightarrow{}^{\forall}x\in S,m+1\le x\\ &\Longrightarrow m+1\in T \end{split} \end{equation*} となり、$m+1\notin T~$に矛盾する。
よって、$m\in S~$となり、この$~m~$が$~S~$の$\le$における最小元である。
$$\square$$

この性質を自然数の整列性という。

定理13
任意の自然数$~n\in\mathbb{N}~$についての命題$~P(n)~$があり、次が成り立つとする。
\begin{align} (1)&~P(0)~は正しい\\ (2)&~({}^{\forall}k\in\mathbb{N},0\le k\le n\Longrightarrow P(k)~が正しい)なら~P(n+1)~も正しい \end{align}
このとき、すべての自然数$~n~$について$~P(n)~$は正しい。

$S:=\{n\in\mathbb{N}\mid P(n)~が正しい\}~$と定める。
条件$(1)$より$~0\in S~$であり、条件$(2)$より次が成り立つ。 $$ ({}^{\forall}k\in\mathbb{N},0\le k\le n\Longrightarrow k\in S)\Longrightarrow n+1\in S $$ $T:=\{n\in\mathbb{N}\mid n\notin S\}~$として$~T=\emptyset~$を示す。
$T\neq\emptyset~$と仮定すると、整列性より最小元$~n_0\in T~$が存在する。
$0\in S~$なので$~0\notin T~$であり、$n_0\neq0~$となる。
よって、$n_0=m+1~$となる$~m\in\mathbb{N}~$がとれる。
$n_0~$の最小性より、$0\le k\le m~$となる$~k\in\mathbb{N}~$に対して、$k\in S~$となる。
したがって、$m+1\in S~$となるが、これは$~m+1=n_0\in T~$に矛盾する。
$$\square$$

この定理を利用した証明方法も(数学的)帰納法という。
(1)自然数の公理
(2)自然数の加法
(3)自然数の順序関係