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代数構造の拡張 (4)モノイドから対合付きモノイド


$M~$を可換モノイドとし、$S\subset M~$を$~M~$の部分モノイドとする。 つまり \begin{align*} &e \in S \\ &{}^{\forall}x,y \in S, xy \in S \end{align*} を満たすものとする。
また、対合付き可換モノイド$~M \times M~$上の二項関係$\sim$を次で定義する。 \[ (x_1,y_1)\sim(x_2,y_2) \Longleftrightarrow {}^{\exists}s,s' \in S ~\mathrm{s.t.}~ (s,s)(x_1,y_1)=(s',s')(x_2,y_2) \]
補題13
上の状況で、$M\times M~$上の関係$\sim$は同値関係である。

反射律と対称律は明らかである。
任意に$~x_1,x_2,x_3,y_1,y_2,y_3 \in M~$をとる。
$(x_1,y_1)\sim(x_2,y_2)~$かつ$~(x_2,y_2)\sim(x_3,y_3)~$とすると \begin{align*} (s,s)(x_1,y_1)=(s',s')(x_2,y_2) \\ (t,t)(x_2,y_2)=(t',t')(x_3,y_3) \end{align*} となる$~s,s',t,t' \in S~$が存在する。
このとき \begin{align*} (ts,ts)(x_1,y_1) &= (t,t)(s,s)(x_1,y_1) \\ &= (t,t)(s',s')(x_2,y_2) \\ &= (s',s')(t,t)(x_2,y_2) \\ &= (s',s')(t',t')(x_3,y_3) \\ &= (s't',s't')(x_3,y_3) \end{align*} となるので、$(x_1,y_1)\sim(x_3,y_3)~$である。
$$\square$$

この同値関係$\sim$による$~M \times M~$の商集合を$~M_S^*=(M \times M)/\sim~$と書く。
また、$(x,y) \in M \times M~$の同値類を$~[x,y]~$と書くことにし、$M_S^*~$上の演算を \begin{align*} &[x_1,y_1][x_2,y_2]=[x_1x_2,y_1y_2] \\ &[x,y]^*=[y,x] \end{align*} で定める。
補題14
上の状況で、$M_S^*~$上の演算の定義はwell-definedである。

$[x_1,y_1]=[x_1',y_1'],[x_2,y_2]=[x_2',y_2']~$とする。 つまり \begin{align*} &(s,s)(x_1,y_1)=(s',s')(x_1',y_1') \\ &(t,t)(x_2,y_2)=(t',t')(x_2',y_2') \end{align*} となる$~s,s',t,t' \in S~$が存在する。
このとき、 \begin{align*} (st,st)(x_1x_2,y_1y_2) &= (s,s)(x_1,y_1)(t,t)(x_2,y_2) \\ &= (s',s')(x_1',y_1')(t',t')(x_2',y_2') \\ &= (s't',s't')(x_1'x_2',y_1'y_2') \end{align*} となるので、 \[ [x_1x_2,y_1y_2]=[x_1'x_2',y_1'y_2'] \] がわかる。
また、明らかに \[ (s,s)(y_1,x_1)=(s',s')(y_1',x_1') \] となっているので、$[y_1,x_1]=[y_1',x_1']~$である。
よって、これらの定義はwell-definedである。
$$\square$$


定理15
$M_S^*~$は上で定義した演算により対合付き可換モノイドになる。

$x_1,x_2,x_3,y_1,y_2,y_2 \in M~$を任意にとる。
このとき \begin{align*} ([x_1,y_1][x_2,y_2])[x_3,y_3] &= [x_1x_2,y_1y_2][x_3,y_3] \\ &= [(x_1x_2)x_3,(y_1y_2)y_3] \\ &= [x_1(x_2x_3),y_1(y_2y_3)] \\ &= [x_1,y_1][x_2x_3,y_2y_3] \\ &= [x_1,y_1]([x_2,y_2][x_3,y_3]) \end{align*} となり、$G~$は簡約性を持つ。

任意の$~x_0,x,y \in M~$に対して、補題3から \begin{align*} [e,e][x,y] = [x,y] \\ [x,y][e,e] = [x,y] \end{align*} が成り立つ。
よって、$[e,e]~$が$~G~$における単位元である。

任意の$~x,y,x',y' \in M~$に対して \[ ([x,y]^*)^*=[y,x]^*=[x,y] \] \begin{align*} ([x,y][x',y'])^* &= [xx',yy']^* \\ &= [yy',xx'] \\ &= [y',x'][x,y] \\ &= [x',y']^*[x,y]^* \end{align*} となり、${}^*~$は$~M_S^*~$上の対合である。
$$\square$$


命題16
$M~$を可換モノイドとし、$S~$を$~M~$の部分モノイドとする。
このとき、写像 \[ \pi : M \longrightarrow M_S^* ~;~ x \longmapsto [x,e] \] はモノイド準同型である。

任意に$~x,y \in M~$をとる。
\begin{align*} \pi(xy) &= [xy,e] \\ &= [x,e][y,e] \\ &= \pi(x)\pi(y) \end{align*} となるので、$\pi~$はモノイド準同型である。
$$\square$$

この準同型$~\pi : M \to M_S^*~$を自然な準同型と呼ぶことにする。

定理17
$M~$を可換モノイドとし、$S~$を$~M~$の部分モノイドとする。
$(N,~{}^{\star})~$を任意の対合付き可換モノイド、$\varphi:M \to N~$をモノイド準同型とする。
任意の$~x \in S~$に対して、$\varphi(x)~$が$~{}^{\star}$-単元となるとき、$\varphi=\psi\circ\pi~$を満たす対合付きモノイドの準同型$~\psi:M_S^* \to N~$がただ1つ存在する。
ただし、$\pi:M \to M_S^*~$は自然な準同型である。

写像$~\psi:G \to H~$を \[ \psi([x,y])=\varphi(x)\varphi(y)^{\star} \] によって定義する。
$[x,y]=[x',y']~$とすると \[ (s,s)(x,y)=(s',s')(x',y') \] となる$~s,s' \in S~$が存在する。 このとき \begin{align*} \varphi(x)\varphi(y)^{\star} &= \varphi(x)\varphi(s)\varphi(s)^{\star}\varphi(y)^{\star} \\ &= \varphi(sx)\varphi(sy)^{\star} \\ &= \varphi(s'x')\varphi(s'y')^{\star} \\ &= \varphi(x')\varphi(s')\varphi(s')^{\star}\varphi(y')^{\star} \\ &= \varphi(x')\varphi(y')^{\star} \end{align*} となるので、$\psi~$の定義はwell-definedである。

任意に$~x_1,x_2,y_1,y_2 \in M~$をとる。
このとき \begin{align*} \psi([x_1,y_1][x_2,y_2]) &= \psi([x_1x_2,y_1y_2]) \\ &= \varphi(x_1x_2)\varphi(y_1y_2)^{\star} \\ &= \varphi(x_1)\varphi(x_2)(\varphi(y_1)\varphi(y_2))^{\star} \\ &= \varphi(x_1)\varphi(x_2)\varphi(y_1)^{\star}\varphi(y_2)^{\star} \\ &= \psi([x_1,y_1])\psi([x_2,y_2]) \end{align*} \begin{align*} \psi([x_1,y_1])^{\star} &= (\varphi(x_1)\varphi(y_1)^{\star})^{\star} \\ &= (\varphi(y)^{\star})^{\star}\varphi(x_1)^{\star} \\ &= \varphi(y)\varphi(x)^{\star} \\ &= \psi([y,x]) \\ &= \psi([x,y]^*) \end{align*} となるので、$\psi~$は対合付きモノイドの準同型である。

また、任意の$~x \in M~$に対して \begin{align*} (\psi\circ\pi)(x) &= \psi(\pi(x)) \\ &= \psi([x,e_M]) \\ &= \varphi(xx)\varphi(e_M)^{\star} \\ &= \varphi(x){e_N}^{\star} \\ &= \varphi(x)e_N \\ &= \varphi(x) \end{align*} となる。
$$\square$$

(1)半群から群
(2)可換環の局所化
(3)対合付きモノイド
(4)モノイドから対合付きモノイド