代数構造の拡張 (1)半群から群
$S~$を簡約的な可換半群とする。 つまり、次が成り立っている。
\begin{align*} (1)&~{}^{\forall}x,y,z \in S, (xy)z=x(yz) \\ (2)&~{}^{\forall}x,y \in S, xy=yx \\ (3)&~{}^{\forall}x,y,z \in S, xz=yz \Longrightarrow x=y \end{align*} が成り立っている。
このとき、$S \times S~$上に二項関係$\sim$を次のように定義する。 \[ (x_1,y_1)\sim(x_2,y_2) \Longleftrightarrow x_1y_2=x_2y_1 \]
補題1
上の状況で、$S\times S~$上の関係$\sim$は同値関係である。
任意に$~x_1,x_2,x_3,y_1,y_2,y_3 \in S~$をとる。
このとき、明らかに$~(x_1,y_1)\sim(x_1,y_1)$である。
$(x_1,y_1)\sim(x_2,y_2)~$なら、$x_1y_2=x_2y_1~$が成り立っている。
よって、$x_2y_1=x_1y_2~$が成り立つので、$(x_2,y_2)\sim(x_1,y_1)~$となる。
また、$(x_1,y_1)\sim(x_2,y_2)~$かつ$~(x_2,y_2)\sim(x_3,y_3)~$とすると \begin{align*} x_1y_2=x_2y_1 \\ x_2y_3=x_3y_2 \end{align*} が成り立っているので、$(x_1y_2)(x_2y_3)=(x_2y_1)(x_3y_2)~$となる。
$S~$は簡約的な可換半群なので、$x_1y_3=x_3y_1~$が成り立つ。
よって、$(x_1,y_2)\sim(x_3,y_3)~$となる。
$$\square$$
このとき、明らかに$~(x_1,y_1)\sim(x_1,y_1)$である。
$(x_1,y_1)\sim(x_2,y_2)~$なら、$x_1y_2=x_2y_1~$が成り立っている。
よって、$x_2y_1=x_1y_2~$が成り立つので、$(x_2,y_2)\sim(x_1,y_1)~$となる。
また、$(x_1,y_1)\sim(x_2,y_2)~$かつ$~(x_2,y_2)\sim(x_3,y_3)~$とすると \begin{align*} x_1y_2=x_2y_1 \\ x_2y_3=x_3y_2 \end{align*} が成り立っているので、$(x_1y_2)(x_2y_3)=(x_2y_1)(x_3y_2)~$となる。
$S~$は簡約的な可換半群なので、$x_1y_3=x_3y_1~$が成り立つ。
よって、$(x_1,y_2)\sim(x_3,y_3)~$となる。
また、$(x,y) \in S \times S~$の同値類を$~[x,y]~$と書くことにし、$G~$上の二項演算を \[ [x_1,y_1][x_2,y_2]=[x_1x_2,y_1y_2] \] で定める。
補題2
上の状況で、$G~$上の二項演算の定義はwell-definedである。
$[x_1,y_1]=[x_1',y_1'],[x_2,y_2]=[x_2',y_2']~$とする。
つまり
\begin{align*}
x_1y_1'=x_1'y_1 \\
x_2y_2'=x_2'y_2
\end{align*}
となっている。
このとき、 \begin{align*} (x_1x_2)(y_1'y_2') &= (x_1y_1')(x_2y_2') \\ &= (x_1'y_1)(x_2'y_2) \\ &= (x_1'x_2')(y_1y_2) \end{align*} となるので、 \[ [x_1x_2,y_1y_2]=[x_1'x_2',y_1'y_2'] \] がわかる。 よって、この定義はwell-definedである。
$$\square$$
このとき、 \begin{align*} (x_1x_2)(y_1'y_2') &= (x_1y_1')(x_2y_2') \\ &= (x_1'y_1)(x_2'y_2) \\ &= (x_1'x_2')(y_1y_2) \end{align*} となるので、 \[ [x_1x_2,y_1y_2]=[x_1'x_2',y_1'y_2'] \] がわかる。 よって、この定義はwell-definedである。
補題3
任意の$~x_0,x,y \in S~$に対して、次が成り立つ。
\[
[x_0x,x_0y]=[xx_0,yx_0]=[x,y]
\]
明らかに
\[
(x_0x)y = x(x_0y)
\]
なので、$[x_0x,x_0y]=[x,y]~$となる。
同様に、$[xx_0,yx_0]=[x,y]~$もわかる。
$$\square$$
同様に、$[xx_0,yx_0]=[x,y]~$もわかる。
定理4
$G~$は上で定義した二項演算により可換群になる。
$x_1,x_2,x_3,y_1,y_2,y_2 \in S~$を任意にとる。
このとき \begin{align*} ([x_1,y_1][x_2,y_2])[x_3,y_3] &= [x_1x_2,y_1y_2][x_3,y_3] \\ &= [(x_1x_2)x_3,(y_1y_2)y_3] \\ &= [x_1(x_2x_3),y_1(y_2y_3)] \\ &= [x_1,y_1][x_2x_3,y_2y_3] \\ &= [x_1,y_1]([x_2,y_2][x_3,y_3]) \end{align*} となり、$G~$は簡約性を持つ。
任意の$~x_0,x,y \in S~$に対して、補題3から \begin{align*} [x_0,x_0][x,y] = [x_0x,x_0y] = [x,y] \\ [x,y][x_0,x_0] = [xx_0,yx_0] = [x,y] \end{align*} が成り立つ。
よって、$[x_0,x_0]~$という形をした元が$~G~$における単位元である。
任意の$~x,y \in S~$に対して \[ [x,y][y,x] = [xy,yx] = [xy,xy] \] となり、これは$~G~$の単位元である。
同様に、$[y,x][x,y]~$も単位元になる。
したがって、$[x,y]~$に対して$~[y,x]~$は$~G~$における逆元である。
$$\square$$
このとき \begin{align*} ([x_1,y_1][x_2,y_2])[x_3,y_3] &= [x_1x_2,y_1y_2][x_3,y_3] \\ &= [(x_1x_2)x_3,(y_1y_2)y_3] \\ &= [x_1(x_2x_3),y_1(y_2y_3)] \\ &= [x_1,y_1][x_2x_3,y_2y_3] \\ &= [x_1,y_1]([x_2,y_2][x_3,y_3]) \end{align*} となり、$G~$は簡約性を持つ。
任意の$~x_0,x,y \in S~$に対して、補題3から \begin{align*} [x_0,x_0][x,y] = [x_0x,x_0y] = [x,y] \\ [x,y][x_0,x_0] = [xx_0,yx_0] = [x,y] \end{align*} が成り立つ。
よって、$[x_0,x_0]~$という形をした元が$~G~$における単位元である。
任意の$~x,y \in S~$に対して \[ [x,y][y,x] = [xy,yx] = [xy,xy] \] となり、これは$~G~$の単位元である。
同様に、$[y,x][x,y]~$も単位元になる。
したがって、$[x,y]~$に対して$~[y,x]~$は$~G~$における逆元である。
命題5
$S~$を簡約的な可換半群とし、$G~$を上で$~S~$から構成した群とする。このとき、写像$~\pi : S \to G~$を \[ \pi(x) = [xx,x] \] と定めると、これは半群準同型となる。
任意に$~x,y \in S~$をとる。
\begin{align*} \pi(xy) &= [xyxy,xy] \\ &= [xx,x][yy,y] \\ &= \pi(x)\pi(y) \end{align*} となるので、$\pi~$は半群準同型である。
$$\square$$
\begin{align*} \pi(xy) &= [xyxy,xy] \\ &= [xx,x][yy,y] \\ &= \pi(x)\pi(y) \end{align*} となるので、$\pi~$は半群準同型である。
定理6
$S~$を簡約的な可換半群とし、$G~$を上で$~S~$から構成した群とする。$H~$を任意の可換群、$\varphi:S \to H~$を半群準同型とする。
このとき、$\varphi=\psi\circ\pi~$を満たす群準同型$~\psi:G \to H~$がただ1つ存在する。
ただし、$\pi:S \to G~$は自然な準同型である。
写像$~\psi:G \to H~$を
\[
\psi([x,y])=\varphi(x)\varphi(y)^{-1}
\]
によって定義する。
$[x,y]=[x',y']~$とすると \begin{align*} \varphi(x)\varphi(y') &= \varphi(xy') \\ &= \varphi(x'y) \\ &= \varphi(x')\varphi(y) \end{align*} となり、$H~$は可換群なので \[ \varphi(x)\varphi(y)^{-1} = \varphi(x')\varphi(y')^{-1} \] か成り立つ。
よって、$\psi~$の定義はwell-definedである。
任意に$~x_1,x_2,y_1,y_2 \in S~$をとる。
このとき \begin{align*} \psi([x_1,y_1][x_2,y_2]) &= \psi([x_1x_2,y_1y_2]) \\ &= \varphi(x_1x_2)\varphi(y_1y_2)^{-1} \\ &= \varphi(x_1)\varphi(x_2)(\varphi(y_1)\varphi(y_2))^{-1} \\ &= \varphi(x_1)\varphi(x_2)\varphi(y_1)^{-1}\varphi(y_2)^{-1} \\ &= \psi([x_1,y_1])\psi([x_2,y_2]) \end{align*} となるので、$\psi~$は群準同型である。
また、任意の$~x \in S~$に対して \begin{align*} (\psi\circ\pi)(x) &= \psi(\pi(x)) \\ &= \psi([xx,x]) \\ &= \varphi(xx)\varphi(x)^{-1} \\ &= \varphi(x)\varphi(x)\varphi(x)^{-1} \\ &= \varphi(x) \end{align*} となる。
$$\square$$
$[x,y]=[x',y']~$とすると \begin{align*} \varphi(x)\varphi(y') &= \varphi(xy') \\ &= \varphi(x'y) \\ &= \varphi(x')\varphi(y) \end{align*} となり、$H~$は可換群なので \[ \varphi(x)\varphi(y)^{-1} = \varphi(x')\varphi(y')^{-1} \] か成り立つ。
よって、$\psi~$の定義はwell-definedである。
任意に$~x_1,x_2,y_1,y_2 \in S~$をとる。
このとき \begin{align*} \psi([x_1,y_1][x_2,y_2]) &= \psi([x_1x_2,y_1y_2]) \\ &= \varphi(x_1x_2)\varphi(y_1y_2)^{-1} \\ &= \varphi(x_1)\varphi(x_2)(\varphi(y_1)\varphi(y_2))^{-1} \\ &= \varphi(x_1)\varphi(x_2)\varphi(y_1)^{-1}\varphi(y_2)^{-1} \\ &= \psi([x_1,y_1])\psi([x_2,y_2]) \end{align*} となるので、$\psi~$は群準同型である。
また、任意の$~x \in S~$に対して \begin{align*} (\psi\circ\pi)(x) &= \psi(\pi(x)) \\ &= \psi([xx,x]) \\ &= \varphi(xx)\varphi(x)^{-1} \\ &= \varphi(x)\varphi(x)\varphi(x)^{-1} \\ &= \varphi(x) \end{align*} となる。