可換環論 (1)体・整域
この可換環論の頁では、環はすべて零環でないものとする。
つまり、以降すべての環において$~0\neq1~$であるとする。
環$~A~$に対して、$0~$以外の元がすべて単元であるとき、つまり、 $$ A^{\times}=A\setminus\{0\} $$ となるとき、$A~$は可除環または斜体であるという。
環として可換な可除環を体、環として非可換な可除環を非可換体という。
命題1
$A~$を可換環とするとき、次の$(1)$と$(2)$は同値である。
\begin{align}
(1)&~Aは体である\\
(2)&~Aは自明なイデアルしかもたない
\end{align}
$(1)\Rightarrow(2)$
$A~$を体、$I\subset A~$をイデアルとする。
$A~$は体なので、任意の元$~x\neq0~$に対して乗法逆元$~x^{-1}~$が存在する。
$I\neq\{0\}~$とし、任意に$~a\in A~$をとる。
このとき、$x\in I~$で$~x\neq0~$となるものがとれ、$~a=(ax^{-1})x\in I~$となる。
よって、$I=A~$である。
$(1)\Leftarrow(2)$
環$~A~$は自明でないイデアルをもたないとする。
$x\in A\setminus\{0\}~$とすれば、$\{x\}~$で生成されたイデアル$~(x)~$は$~A~$になる。
よって、$1\in(x)~$なので、ある$~a\in A~$があり$~1=ax~$となる。
これは、$a=x^{-1}~$であることを意味する。
よって、$A~$は体である。
系2
体から環への準同型は単射である。
$K~$を体、$A~$を環、$\varphi:K\to A~$を環準同型とする。
環論.命題9より、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$は$~K~$のイデアルで、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi\neq K~$となる。
$K~$は自明でないイデアルをもたないので、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi=\{0_K\}~$となる。
よって、環論.命題7より$~\varphi~$は単射である。
$$\square$$
環論.命題9より、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi~$は$~K~$のイデアルで、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi\neq K~$となる。
$K~$は自明でないイデアルをもたないので、$\mathop{\mathrm{Ker}}\nolimits\varphi=\{0_K\}~$となる。
よって、環論.命題7より$~\varphi~$は単射である。
$A$を可換環とする。
${}^{\forall}a,b\in A\setminus\{0\},ab\neq0~$を満たすとき、$A~$は整域であるという。
また、${}^{\exists}b\in A\setminus\{0\}~\mathrm{s.t.}~ab=0~$を満たすような$~a\in A~$を零因子という。
つまり、整域とは$~0~$以外の零因子をもたない可換環のことである。
命題3
整域の部分環は整域である。
$A~$を整域、$B~$を$~A~$の部分環とする。
$B~$は$~A~$の加法について$~A~$の部分群なので、$0_A=0_B~$である。
(以降、$0_A=0_B=0~$とする。)
$a,b\in B\setminus\{0\}~$なら、$a,b\in A\setminus\{0\}~$なので$~ab\neq0~$である。
$A~$と$~B~$の乗法は同じなので、$B~$上でも$~ab\neq0~$である。
よって、$B~$は整域となる。
$$\square$$
$B~$は$~A~$の加法について$~A~$の部分群なので、$0_A=0_B~$である。
(以降、$0_A=0_B=0~$とする。)
$a,b\in B\setminus\{0\}~$なら、$a,b\in A\setminus\{0\}~$なので$~ab\neq0~$である。
$A~$と$~B~$の乗法は同じなので、$B~$上でも$~ab\neq0~$である。
よって、$B~$は整域となる。
命題4
$A~$を可換環、$a,b,c\in A~$かつ$~a~$は零因子でないとする。このとき、次が成り立つ。 \[ ab = ac \Longrightarrow b=c \]
$ab=ac~$なので、両辺に$-(ac)~$を足すと
\[
a(b-c) = 0
\]
となる。
$a~$は零因子ではないので$~b-c=0~$となる。
したがって、$b=c~$となる。
$$\square$$
$a~$は零因子ではないので$~b-c=0~$となる。
したがって、$b=c~$となる。
命題5
体は整域である。
$K~$を体とし、$a,b\in K~$を任意にとる。
$ab=0~$であると仮定し矛盾を導く。
このとき、$a,b~$には逆元$~a^{-1},b^{-1}~$が存在する。
よって、 \[ 0=b^{-1}a^{-1}0=b^{-1}a^{-1}ab=1 \] となる。
$A~$は零環ではないので、これは矛盾である。
$$\square$$
$ab=0~$であると仮定し矛盾を導く。
このとき、$a,b~$には逆元$~a^{-1},b^{-1}~$が存在する。
よって、 \[ 0=b^{-1}a^{-1}0=b^{-1}a^{-1}ab=1 \] となる。
$A~$は零環ではないので、これは矛盾である。