無限直積集合
集合と写像の頁において、直積集合というものを定義している。 しかし、その頁では高々有限個の集合の直積しか定義できていない。 無限個の集合$~A_1,A_2,A_3,\dots~$の直積$~\displaystyle\prod_{i=1}^{\infty}A_i~$は定義できないだろうか。 もっと一般に添え字集合$~\Lambda~$によって添え字付けられた集合族$~\{A_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}~$に対する直積$~\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}~$は構成可能だろうか。 実は、この無限直積とも言うべき集合は定義可能である。 そのためには、まず通常の直積の元を解釈しなおす必要がある。
まず、2つの集合の直積を、集合$~\{1,2\}~$によって添え字付けられている集合族$~\{A_1,A_2\}~$に対する直積とみなす。 そして、直積の元$~\displaystyle f\in\prod_{i\in\{1,2\}}A_i~$を次を満たす写像$~\{1,2\}\to A_1\cup A_2~$とみなす。 \[ {}^{\forall}i\in\{1,2\},f(i)\in A_i \] つまり、直積の元である順序対を$~(f(1),f(2))~$とみて、それを構成している写像をそれ自身と同一視する。 同様に、$n~$個の集合の直積を、集合$~\{1,\dots,n\}~$によって添え字付けられている集合族$~\{A_1,\dots,A_n\}~$に対する直積とみなし、その元を \[ {}^{\forall}i\in\{1,\dots,n\},f(i)\in A_i \] を満たす写像$~\displaystyle f:\{1,\dots,n\}\to\bigcup_{i=1}^{n}A_i~$とみなす。
ここで、$\Lambda~$に添え字付けられた集合族$~\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}~$に対して \[ {}^{\forall}\lambda\in\Lambda,f(\lambda)\in A_{\lambda} \] と満たす写像$~\displaystyle f:\Lambda\to\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}~$全体の集合を$~\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}~$とする。 また、何らかの集合によって添え字付けられている必要もなく、任意の集合族$~\mathcal{F}~$に対して \[ {}^{\forall}X\in\mathcal{F},f(X)\in X \] を満たす写像$~\displaystyle f:\mathcal{F}\to\bigcup\mathcal{F}~$全体を$~\mathcal{F}~$の直積$~\displaystyle\prod\mathcal{F}~$とする。
直感的には、$\mathcal{F}~$に空集合が含まれていないときは、常に$~\mathcal{F}~$の直積は空集合でないと思われる。 つまり、次が成り立つと思われる。 \[ \emptyset\notin\mathcal{F} \Longrightarrow \prod\mathcal{F}\neq\emptyset \] 実際これは選択公理を認めれば正しいことがわかる。 空集合を含まない集合族$~\mathcal{F}~$に対しては \[ {}^{\forall}X\in\mathcal{F},f(X)\in X \] を満たす写像$~\displaystyle f:\mathcal{F}\to\bigcup\mathcal{F}~$(これを$~\mathcal{F}~$の選択函数という)がとれることが選択公理から証明できる。 そして、この写像はまさに直積$~\displaystyle\prod\mathcal{F}~$の元である。 逆に、空集合をもたない集合族の直積が空でないことから選択公理が証明できることも知られている。 つまり、選択公理と空集合をもたない集合族の直積が空でないことは(ZF公理系において)同値な命題となる。
また、通常の意味の(集合と写像の頁で定義した)直積では、積の順序が可換ではなかった。 しかし、この一般の直積の定義では積の順序を区別することができない(そもそも積の順序というものが考えられない)。 この違いは、集合$~\{1,\dots,n\}~$には全順序が定められているのに対して、一般の$~\Lambda~$には全順序が定められていないことから生じる。 よって、順序対のような表記はできないが、$\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}~$の元を$~(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}~$のように表すことがある。 これは、実際の写像が$~f~$のとき$~f(\lambda)=x_{\lambda}~$である。 また、通常の場合と同様に、元$~(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}~$の各$~x_{\lambda}~$をこの元の$~\lambda~$成分という。