選択公理
集合$~A~$に対して、「$A~$は単元集合である」という主張を$~\mathrm{SING}(A)~$と書くことにする。 集合族$~\mathcal{F}~$に対して \[ {}^{\forall}X\in\mathcal{F},\mathrm{SING}(C\cap X) \] を満たす$~C~$を$~\mathcal{F}~$の選択集合という。 任意の集合族に対してその選択集合が存在するとは限らない。 特に、空集合$~\emptyset~$が集合族に含まれているとき、どんな集合$~C~$に対しても$~C\cap\emptyset=\emptyset~$となるので、選択集合は存在しない。 また、集合族$~\{\{a\},\{b\},\{a,b\}\}~$に関しては、もし選択集合$~C~$が存在すれば、$C\cap\{a,b\}=\{a,b\}~$となるので矛盾する。 では、どのようなときに選択集合は存在するだろうか。
上の例から、集合族$~\mathcal{F}~$が空集合を含まず、相異なる任意の2つの元が互いに素であるならば、$\mathcal{F}~$の選択集合は存在しそうである。 つまり、「集合族$~\mathcal{F}~$が \[ \emptyset\notin\mathcal{F} かつ {}^{\forall}X,Y\in\mathcal{F},(X\neq Y\Rightarrow X\cap Y=\emptyset) \] を満たしているとき、$\mathcal{F}~$の選択集合が存在する」。 この主張を日常の言語に言い換えると、「いくつかの集まりがあり、どの2つの集まりにも共通のものがないとき、それぞれの集まりから1つずつものを取って集めることができる」という主張となる。 これは日常的な感覚では明らかなことであり、当然成り立っていると考えられる。 この主張を選択公理といい、現在数学(厳密には集合論)の公理系としてもっとも認められているZFC公理系の公理の1つである。
ZF公理系(ZFC公理系から選択公理を除いた公理系)において、選択公理と同値な条件は多く知られている。 例えば、次のようなものがある。
・整列可能定理
・比較可能定理
・選択函数の存在
・Zornの補題
・Hausdorffの極大原理
・Tukeyの補題
特に、Tukeyの補題とZornの補題は集合と関係の頁で証明しているが、Tukeyの補題の証明には選択公理が用いられている(Zornの補題の証明にはTukeyの補題を用いているため、間接的ではあるが選択公理に依存している)。
実際、Tukeyの補題の証明の冒頭3行(1行目は関係ない)で写像$~f:\mathcal{A}\to\mathcal{A}~$を構成しているが、これには選択公理が必要となる。
ただし、写像を得たいので、選択公理よりもそれと同値な選択函数の存在性を用いる方が直接的である。・比較可能定理
・選択函数の存在
・Zornの補題
・Hausdorffの極大原理
・Tukeyの補題
集合族$~\mathcal{F}~$に対して \[ {}^{\forall}X\in\mathcal{F},f(X)\in X \] を満たす写像$~\displaystyle f:\mathcal{F}\to\bigcup\mathcal{F}~$を$~\mathcal{F}~$の選択函数という。 集合族$~\mathcal{F}~$の選択函数が存在するための十分条件は、$\mathcal{F}~$に空集合が属していないことである。 これは、上に書いた「選択函数の存在」であり、選択公理と同値となる。 Tukeyの補題の証明には、直接にはこれを用いている。 Tukeyの補題の前提条件から、各$~A\in\mathcal{A}~$に対して集合$~\{B\in\mathcal{A} \mid A\subsetneq B\}~$は空ではない。 この集合を$~X_A~$とすれば、集合族$~\{X_A \mid A\in\mathcal{A}\}~$は空集合をもたない。 よって、選択函数$~f'~$が存在する。 つまり、 \[ {}^{\forall}A\in\mathcal{A}, f'(X_A)\in X_A \] が成り立つ。 ここで、写像$~f:\mathcal{A}\to\mathcal{A}~$を$~f(A)=f'(X_A)~$で定める。 このとき、各$~A\in\mathcal{A}~$に対して$~f(A)\in X_A~$、すなわち$~A\subsetneq f(A)~$が成立する。 まさしくこの写像$~f~$が欲しかった写像である。