量化記号
量化と量化子
数学の議論を行うとき、よく「すべての」や「任意の」、「存在する」という言葉を使う。 例えば、「"すべての"$4$の倍数は$2$の倍数である。」や「$0$以外の"任意の"実数は$2$乗すると正になる。」、「複素数には$2$乗すると$-1$になるものが"存在する"。」などである。 このように、命題を満たすものの"個数"について言及し、指定することを量化という。 「すべての」や「任意の」というような量化を全称量化といい、「存在する」などのような量化を存在量化という。 これらの量化は、よく使うのでそれを簡単に表すための記号が作られている。 全称量化には"$\forall$"、存在量化には"$\exists$"を使い、これらの記号をそれぞれ全称量化子、存在量化子という。 これを用いて先の例を書くと次のようになる。 \begin{align} &{}^{\forall}n,(n~は4の倍数)\Longrightarrow(n~は2の倍数)\\ &{}^{\forall}x,(x~は実数かつ0でない)\Longrightarrow x^2\gt0\\ &{}^{\exists}z~\mathrm{s.t.}~(z~は複素数であり~z^2=-1~となる) \end{align} より数学的に記号を用いて書くと次のようになる。 \begin{align} &{}^{\forall}n,n\in4\mathbb{Z}\Longrightarrow n\in2\mathbb{Z}\\ &{}^{\forall}x,x\in\mathbb{R}\land x\neq0\Longrightarrow x^2\gt0\\ &{}^{\exists}z~\mathrm{s.t.}~z\in\mathbb{C}\land z^2=-1 \end{align} 普通は、さらに省略して次のように書かれる。 \begin{align} &{}^{\forall}n\in4\mathbb{Z},n\in2\mathbb{Z}\\ &{}^{\forall}x\in\mathbb{R}\setminus\{0\},x^2\gt0\\ &{}^{\exists}z\in\mathbb{C}~\mathrm{s.t.}~z^2=-1 \end{align} (省略や表記の仕方は人によって違うので、すべての人がこのように書くとは限らない。)
全称量化子
$P(x)~$を$~x~$を変数とする命題とする。 $x~$を全称量化するには、つまり「すべての$~x~$は$~P(x)~$を満たす」という命題を表すには \begin{align} &\forall xP(x)\\ &\forall x,P(x)\\ &\forall x(P(x)) \end{align} などと書く(他にも多くの書き方がある)。 さらに全称量化子を$~{}^{\forall}xP(x)~$のように変数の左肩に乗せて書くこともある。 これらの表記の仕方はすべて同じ意味であり、どの表記を使うかは自由である。 このサイトでは全称量化子は左肩に乗せ、変数と命題の間にコンマを打つ書き方 \[ {}^{\forall}x,P(x) \] を用いている。 (しかし、公理的集合論の頁ではコンマは打たない書き方をしている。) なお、命題を($~$)で囲む書き方では、わかりにくい箇所にのみ($~$)が書かれることが多い。 その際、コンマと併用していることもある。存在量化子
次に、$x~$を存在量化するには、つまり「$P(x)~$を満たす$~x~$が存在する」という命題を表すには \begin{align} &\exists xP(x)\\ &\exists x,P(x)\\ &\exists x(P(x)) \end{align} などと書く。 全称量化のときと同様に、存在量化子を変数の左肩に乗せて書くこともある。 存在量化の場合は、コンマの代わりに$~\mathrm{s.t.}~$(such thatの略)を用いて \[ {}^{\exists}x~\mathrm{s.t.}~P(x) \] と書かれることがある。 このサイトではこの表記を用いている。 (全称量化のときと同様、公理的集合論の頁ではその限りではない。)量化子と集合
また、数学ではある集合に限ってその命題を主張することが多い。 例えば「集合$~A~$のすべての元$~a~$は$~P(a)~$を満たす」などである。 これは実質 \[ {}^{\forall}a,a\in A\Longrightarrow P(a) \] を表している。 この表現は数学でよく用いられるので、これは \[ {}^{\forall}a\in A,P(a) \] と書かれる。 しかし、あくまでこの表記は$~{}^{\forall}a,a\in A\Longrightarrow P(a)~$を省略したものであることを注意しておく。 存在量化の場合、「集合$~A~$には$~P(a)~$を満たす元$~a~$が存在する」は \[ {}^{\exists}a~\mathrm{s.t.}~a\in A\land P(a) \] のことであり、これも \[ {}^{\exists}a\in A~\mathrm{s.t.}~P(a) \] と省略して書かれる。量化子と論理演算
${}^{\forall}x,P(x)~$や$~{}^{\exists}x~\mathrm{s.t.}~P(x)~$の否定命題は \begin{align} &{}^{\exists}x~\mathrm{s.t.}~\lnot P(x)\\ &{}^{\forall}x,\lnot P(x) \end{align} で与えられる。 例えば、${}^{\forall}a,a\in A\Longrightarrow P(a)~$の否定を考えると、 \[ \lnot(a\in A\Longrightarrow P(a))\Longleftrightarrow a\in A\land\lnot P(a) \] であることから、${}^{\exists}a~\mathrm{s.t.}~a\in A\land\lnot P(a)~$であることがわかる。全称量化$~{}^{\forall}x\in\{x_1,x_2,x_3,\dots\},P(x)~$は複数個の論理積 \[ P(x_1)\land P(x_2)\land P(x_3)\land\cdots \] と解釈することができる。 また、存在量化$~{}^{\exists}x\in\{x_1,x_2,x_3,\dots\}~\mathrm{s.t.}~P(x)~$は複数個の論理和 \[ P(x_1)\lor P(x_2)\lor P(x_3)\lor\cdots \] と解釈することができる。
量化子の入れ子
量化子は1つの命題に複数回使いたいときがある。 例えば「すべての実数$~x~$に対して、$~xy=1~$となる実数$~y~$が存在する」という命題は$~x~$について全称量化、$~y~$について存在量化されている。 この命題を表すときは \[ {}^{\forall}x\in\mathbb{R},{}^{\exists}y\in\mathbb{R}~\mathrm{s.t.}~xy=1 \] と量化子を並べて書く。 つまり「すべての$~x~$について$~P(x,y)~$を満たす$~y~$が存在する」という命題は \[ {}^{\forall}x,{}^{\exists}y~\mathrm{s.t.}~P(x,y) \] と書く。 ここで注意として、この量化子の順序を入れ替えた \[ {}^{\exists}y~\mathrm{s.t.}~{}^{\forall}x,P(x,y) \] という命題は上の命題とは全く異なる命題である。 先の例を用いると、 \begin{align} &{}^{\forall}x\in\mathbb{R},{}^{\exists}y\in\mathbb{R}~\mathrm{s.t.}~xy=1\\ &{}^{\exists}y\in\mathbb{R}~\mathrm{s.t.}~{}^{\forall}x\in\mathbb{R},xy=1 \end{align} は省略せずに書くと、 \begin{align} &{}^{\forall}x,x\in\mathbb{R}\Longrightarrow({}^{\exists}y~\mathrm{s.t.}~y\in\mathbb{R}\land xy=1)\\ &{}^{\exists}y~\mathrm{s.t.}~y\in\mathbb{R}\land({}^{\forall}x,x\in\mathbb{R}\Longrightarrow xy=1) \end{align} となっている。 上の命題は「$x~$が実数なら"$~xy=1~$となる実数$~y~$が存在する"」ことを言っているのに対して、 下の命題は「ある実数$~y~$が存在して"任意の実数$~x~$で$~xy=1~$となる"」ことを言っている。 つまり、上の命題は任意の実数$~x~$に対する逆数$~x^{-1}~$の存在を言っており、下の命題は特別な実数$~y~$がありすべての実数$~x~$に対して$~xy=1~$となることを言っている。 よって、上の命題は真なのに対して、下の命題は偽である(そのような$~y~$は存在しない)。 結局、${}^{\forall}x,{}^{\exists}y~\mathrm{s.t.}~P(x,y)~$という命題は任意の$~x~$に対して$~y~$が存在することを言っている。 それに対して$~{}^{\exists}y~\mathrm{s.t.}~{}^{\forall}x,P(x,y)~$という命題はある$~y~$が先にあって、その$~y~$に対してすべての$~x~$で$~P(x,y)~$が成り立つことを言っている。並べる量化子が同じときは、つまり \[ {}^{\forall}x_1,{}^{\forall}x_2,P(x_1,x_2) \] などの命題は \[ {}^{\forall}x_1,x_2,P(x_1,x_2) \] と量化子をまとめて書かれることがある。 これは特に、$x_1,x_2~$がある集合の元に限定されているときに用いられる。 つまり \[ {}^{\forall}x_1\in X,{}^{\forall}x_2\in X,P(x_1,x_2) \] という命題を \[ {}^{\forall}x_1,x_2\in X,P(x_1,x_2) \] と書く。
量化された命題の証明方法
${}^{\forall}x\in X,P(x)~$を証明したいとき、$X~$の元$~x~$すべてについて$~P(x)~$を満たすことを示す必要がある。 その方法は数多くあるが、一番簡単でわかりやすいのは、まず任意に$~X~$の元$~x~$をとり、$X~$の元であることから$~P(x)~$となることを導く方法である。 証明の書き出しに「任意に$~x\in X~$をとる。」や「$x\in X~$を任意に固定する。」などの文言を書き、その上で$~x~$について議論する。 このとき、$x~$は抽象的なもので作為的であってはならない。
${}^{\exists}x\in X~\mathrm{s.t.}~P(x)~$を証明したいときには、$P(x_0)~$を満たす$~X~$の元$~x_0~$を1つでも見つければよい。 証明では、明確に$~x_0~$を決めた上で、「$x_0\in X~$をとると」などと始めて$~P(x_0)~$となることを示したり、「$x\in X~$を$~x=x_0~$とすると」と始めて$~P(x)~$を示すなどの書き方がある。
${}^{\forall}x\in X,{}^{\exists}y\in Y~\mathrm{s.t.}~P(x,y)~$など、量化子が複数あるときは、前から順に読んで示していけばよい。 つまり、${}^{\forall}x\in X,{}^{\exists}y\in Y~\mathrm{s.t.}~P(x,y)~$を示すときは、任意の$~x\in X~$を固定して$~{}^{\exists}y\in Y~\mathrm{s.t.}~P(x,y)~$を示すようにすればよい。
ここに示した証明の書き方はあくまで一例であり、これでないといけないというものではない。 数学を学んでいると、様々な命題を証明しないといけなくなる。 それらに対して、いくつもの証明の道筋が存在するので、自分にあった証明の方法を模索していってもらいたい。